星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

文字の大きさ
上 下
23 / 113

九尾隊四天王・エンジュ

しおりを挟む

~星流国・都 “龍神の地”~



「なんだよここ」


 一時の夢を見て表情を緩める妖怪が多い中、アサヒは煌びやかな提灯が光る花街で、一人苛立った表情を浮かべた。
 クレナイに案内されたのは、都の一番高級な遊郭“花煌亭かおうてい“だったため、アサヒは盛大なため息を吐く。


「あの色ボケ野郎、こんなとこにいやがんのか?」


 アサヒは遊郭を指さして顔を引き攣らせる。


「そうさね。元々アンタと揉めた原因はこれだろう?翠緑の地に遊郭を作りたいと言ったエンジュを、アンタが突っぱねたからまだ拗ねているのさ」

「……」


 アサヒは憂鬱そうな顔で花煌亭を見上げ、大きな溜息を吐く。


「十年ぐらいで帰ってくると思ってたけど、意地を張って五十年もへそを曲げているさね。良い機会だし、早く連れ戻しな。アタシはここで待ってるからさぁ」


 クレナイは扇子を広げニッコリと笑みを浮かべる。
 アサヒは意を決し、美しい銀髪を揺らしながら花煌亭の暖簾をくぐった。芳しい花の香りがアサヒの鼻を掠め、煌びやかな装飾に一瞬目を細める。

 アサヒが中に入ると、出迎えた猫妖怪の受付が顔を赤くした。


「(あらま、男前ね)いらっしゃいませぇ狐の旦那様ぁ~!……うちの廓は初めてのご利用で?どの子に致します?」


 溜息の出るようなアサヒの美しさに、待機していた遊女達が嬉しそうにアピールをし出す。しかしアサヒは見向きもせず顔を顰めた。


「いや、いい……別の用があって来た」

「(男色かしら?)なるほど、人数は少ないですが男娼もいます。其方の部屋に……」

「だぁーっ!!!客じゃねぇって意味だよ!ここに来てる狐の妖怪の部屋に案内しろ!栗色の癖っ毛で眼鏡をかけた奴だ!」


 勘違いをした受付の言葉を遮るように怒鳴りつけるアサヒに、受付はビクッと体を震わせ目を潤ませる。
 見た目からは想像できない口の悪さに、逆に親しみやすいと遊女からは黄色い歓声が上がった。


「そ、その旦那様ぁ?当廓は、お客様をお守りする観点でそういったことは……」

「あのマヌケが今日払った額の倍出す。早く案内しろ、狐の呪いはタチが悪いぞ?」


 アサヒは凄まじい妖力のオーラを放って脅すように受付に言い放つと、お金を受付の台に乱暴に置いて睨み付けた。


「かっ……かしこまりましたぁ~」




-------------------------------------



 最上階に案内されたアサヒは、断りを入れずに乱暴に部屋の扉を開く。
 そこには色気を放ちながら服を脱がそうとするエンジュと、遊女が三人。


「…………」


 アサヒは顔を引き攣らせる。


「おお!アサヒではないかー!」


 エンジュは明るい声色でアサヒの元へ駆け寄ると、ニコッと優しい笑みを浮かべ手を握る。


「アサヒも混ざりに来たのかい?んん?」


 エンジュの天然さが爆発し、アサヒは顔を歪め牙を見せ怒りを露わにした。


「んなワケあるかぁボケェ!!!!尻尾引きちぎって、七尾じゃなくて三尾ぐらいにしてやろうか?アァ?」


 アサヒはエンジュの胸ぐらを掴み睨み付ける。


「えっ……違うの?何しに来たの?」


 エンジュは困った顔でそう問いかけると、アサヒは手を離して溜息を吐く。


「いい加減、翠緑に戻ってこいって言いに来たんだ。それと聞きたいこともある。お前がいない間、大変だったんだぞ」

「えー?大袈裟だなぁ。そんな四、五年でなんか起きるワケな」

「五十年だドアホ!お前はしょーもない理由で、五十年も四天王の責務をサボってこんなとこで現を抜かしやがったんだぞ、分かってんのかぁ!!!」


 アサヒのあまりの怒りに、遊女達はそそくさと部屋を出ていく。
 エンジュはキョトンとした目でアサヒを見る。


「え、うそ、そんなに経った……?五十年?うそーん」


 エンジュは驚きの表情を浮かべわなわなと震える。妖怪は時間の流れをあまり気にしないが、エンジュの感覚はかなり疎いため、それだけの日数が経っている事に気付かなかった様子だった。


「でも戻りたくない」


 エンジュはプイッとアサヒからそっぽを向く。アサヒよりもうんと年上のはずだが、アサヒはまるで子供を相手にしているかのような気分だった。


「一応聞くが、何でだ」

「翠緑に遊郭を作りたいって言ったでしょーが」

「翠緑から都は近いだろ、行きたかったら都に行けって五十年前も言ったよな」


 アサヒは大きな溜息を吐く。


「だからー、違うんだってぇー。ボクにも色々理由があるのぉー」


 エンジュは駄々をこねる子供のように地団駄を踏んでから座布団に座った。


「なんだよ理由って」


 アサヒは畳の上に胡座を掻き面倒くさそうに問いかける。エンジュは少し真面目な表情をして口を開いた。


「翠緑の地は都ほどじゃないけど栄えてるだろう?人口も多いし、活気のある街だ。だけど遊郭がない事で、多くの男たちが都まで出向いて廓でお金を落としてる。しかも都の廓はバカ高い」

「だから何だ、そんなの個人の自由だろうが。全員が行くわけでもねーし」

「だからさ、翠緑に廓を作っちゃえば、翠緑の経済が潤うだろ~!?わざわざ高い金払って都の廓に行くより、近場で翠緑価格の廓に通う方が絶対に良い。たしかに妖怪としての強さも大事だよ?でも、それだけじゃ土地は豊かにはならない。見窄らしい地は舐められる。民を苦しめているんじゃないか、ってね」

「…………」


 エンジュは元々、四天王として翠緑の地の経済を取り仕切る仕事をしていたため、言っていることに一理あると思ったアサヒは黙って話を聞いた。


「近頃、都を仕切る”応龍隊“の御殿がどんどん派手になってる。まるで自分達の隊がこの国で最も強いと言いたげにね。周辺の経済状況が芳しくない地を財力で落とそうとしているような黒い噂もある。何かされる前に手を打った方がいいよー?」


 エンジュはそう言って軽く溜息を吐いた。


「それ、五十年前にもちゃんと説明したか?俺に」

「ううん。してない。だってアサヒがすぐ怒るから」


 アサヒは「うっ」と動揺した声をあげて気まずそうな表情を浮かべた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

処理中です...