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妖怪と人間④
しおりを挟む「あそこに、“翡翠山”という豊かな山がある。狐の妖怪が生まれやすい妖力の豊富な山だったんだが、突如山のてっぺんにダイダラボッチが現れてからは瘴気に侵されて誰も入れなくなった。入れるのは私達のような上位の妖怪だけだ」
ナツメは大剣の指す方角を見ると、木々の間からは紫色のオーラを放つ山が見え、思わず目を見開いた。
頂上にはダイダラボッチと思わしき巨大な妖怪があぐらをかいて鎮座している。
「うわ、でか……へぇ、あの紫色の煙みたいなのが瘴気ってやつ?いかにも危ないって色してんなぁー」
ナツメが何気なく言うと、四人は目を見開く。
「坊や、まさか瘴気が見えるのかい?」
クレナイがそう尋ねると、ナツメは首を傾げる。
「え、あの山、紫色の煙みたいなのに包まれてるじゃん。ダイダラボッチとかいうやつから出てるけど、あれが瘴気ってやつじゃないの?」
「「「「……」」」」
四人は目を見合わせる。
ナツメは居心地悪そうにその様子を見ていたが、我慢できずに口を開いた。
「なんだよ……」
「いや、私達妖怪には“瘴気”は目で見えないんだ。強い妖怪であれば瘴気を感じ取って避けられるが、そうではない妖怪は気付かないうちに瘴気に侵される」
シキの説明に、ナツメは不思議そうに首を傾げる。
「へぇー。あんな紫色なのに、オレにしか見えないんだ」
ナツメはもう一度翡翠山の方へ目をやる。山の頂上から中腹にかけて、紫色の煙が渦巻いているのがハッキリとナツメの目には見えた。
「ちったぁ使える奴なんだな、赤ん坊」
シュラは鼻で笑いナツメを見る。
「赤ん坊って言うんじゃねぇっ!」
ナツメは苛ついた表情でシュラに怒鳴りつける。二人の喧嘩に見慣れてしまった三人は、やれやれと溜息を吐いた。
「ナツメ殿、兄上は悪気はないのじゃ。これでも褒めてるほうだっ」
サイカは困った笑みを浮かべる。
「どこがだよ!」
ナツメの言葉の直後に、翡翠山からけたたましい呻き声が聞こえ、一同は翡翠山の方角を見る。ダイダラボッチが暴れているのか、山の頂上から激しく瘴気が溢れ出るのを見たナツメは顔を引きつらせた。
「うわ、さっきより瘴気が溢れてる!山の下まで流れてるぞ?」
「これは行かないとマズイさね」
「このままじゃ平地まで広がる」
ナツメの言葉に、シキ、クレナイは狐の姿に変わる。
「ぉわ!?でかい狐になった」
シキは美しい金色の毛並みの大きな狐となり、クレナイは艶やかな赤い毛並みの、
これまた大きな狐の姿に変身する。シキとクレナイは七つの尻尾を持っていた。
ナツメは驚きの表情でそれを眺めていたが、ダイダラボッチが暴れている今、ゆっくり見ていられる雰囲気ではなかった。
「急ごう、山がもたない」
「そうさね。シュラ、ナツメ殿は任せたよー。先にゆく」
シキとクレナイは、上昇して翡翠山の方角へ一気に飛んでいく。
「うわー、すげー!飛んでっちゃった」
ナツメは感心した様子でそれを見上げると、シュラが口を開いた。
「ほら、俺らも行くぞ。ニンゲンは飛べないんだろ?仕方ねーから俺様の背に乗りな」
「えっ!?あ、あぁ、うん」
ここに一人で残っても帰り方が分からない。それに妖怪の世界は黒妖怪という危険な妖怪がいると聞いてしまった以上、一人でいる方が危険だと考えたナツメは、内心怯えながらも頷いた。
シュラはシキとクレナイよりは小さいが、ナツメを乗せることが出来るぐらいの大きさの狐に変化した。
ナツメはシュラに近付くと、黒色の毛並みをそっと撫でる。少し固い毛質で、ほんのり温かい。
「すげー……でっけー犬みたい」
「あ?何撫でてやがる馬鹿、置いてくぞ!」
「あ、ごめん。……よいしょっと」
ナツメはシュラの背によじ登ると、サイカは小さな狐の姿になってシュラの頭に飛び乗った。
「出発じゃ兄上!」
「落ちるんじゃねーぞおめーら」
シュラは急上昇すると、シキとクレナイを追いかけるように全速力で翡翠山を目指した。
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