星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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取り返した翡翠山②

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「……ナツメ」


 アサヒは馬乗り袴を着た人型になり、地面に座って胡座をかくと、ナツメを足に座らせ身体を支えるように肩を抱いた。ナツメがきちんと呼吸をしている事に安心し、ホッと胸を撫で下ろす。

 他の狐も人型に戻り、ナツメの元へ駆け寄った。


「ナツメ殿!ナツメ殿ー!」


 サイカが大声でナツメを呼ぶと、ナツメはアサヒの腕に抱かれながらうっすらと目を開ける。


「んん……」


 揺らぐ視界が徐々に安定し最初に目に飛び込んだのは、長い銀髪で狐耳の生えた美しい青年に、ナツメは胸の高鳴りを覚えた。


「だれ……おまえ。天国の人?」


 ナツメは眉を顰めながらアサヒを見て首を傾げる。第一声がそれか、と溜息を吐くアサヒ。


「……分からねぇのか、ナツメ。お前はまだくたばってねーぞ」


 声を聞くとようやく誰だか気づいたのか、ナツメは目を見開く。


「その声……!お前、アサヒか!その姿見たの初めてだから分かんなかった。お前銀色の狐だったもんな、そういえば」


 ナツメはアサヒの銀色に輝く髪をグイッと引っ張り顔を引き寄せる。


「いってぇな、何す……」

「お前、すげー綺麗な顔してるんだなー。目も見たことないくらい綺麗」


 ナツメは目を輝かせ小さくはにかみ、アサヒの頬にそっと手を伸ばす。その温かい手の感触とナツメの表情に、アサヒはみるみる顔を赤くした。


「(おや?やっぱり惚れたかアサヒ)」


 クレナイは扇子で口元を隠しながら、お見通しと言わんばかりにニヤニヤと笑みを浮かべる。ヒイラギはその後ろでクスクスと小さく笑っていた。


「な、何だ急に綺麗とか!!変なこと言うんじゃねぇバカ!!」


 アサヒは動揺し、真っ赤な顔で照れ隠しをするためナツメを罵倒する。


「んだとぉ、褒めたんじゃねーかよ!それよりもっと別に言うことあんだろうが、アホ狐!」


 ナツメがそう言い返すと、アサヒは言葉に詰まり口籠る。


「っ……さっきはその、た、助かった。礼ぐらい言ってやる」


 アサヒが少し照れながら小さくそう言うと、ナツメは満足そうににたーっと笑みを浮かべた。


「ちょっと上からだけど、まいっか。お前にしちゃー上出来じゃん」


 ナツメはそう言って目を細めにーっと笑うと、アサヒの尻尾が無意識に現れ小さく横に揺れる。


「(褒められて嬉しいのかい……?犬みたいさね)」


 クレナイは笑いを堪え視線をずらすと、同じように笑いを堪えるヒイラギと目が合い、二人は分かち合うように頷き合った。


「(何だあの二人)」


 シュラはそんな二人をじとーっと訝しげに見て顔を顰める。


「ナツメ君、無事で良かった。身体は大丈夫かい?ダイダラボッチを取り込んであれだけ瘴気を吸ったのに、君からは全く瘴気の気配がしないね……」


 まだ反動から治りきってないシキは、子供の姿でナツメの顔を覗き込む。


「シキ、子供になってるじゃん!あはは」


 ナツメは呑気に声を出して笑う。


「悠長な……でも平気そうだね、良かった」


 シキは困り顔を浮かべるも、笑う余裕があることに安心し笑みを浮かべた。
 シュラはナツメに近付き、片膝をついてじっとナツメを見る。


「な、なんだよ!またなんか文句か」


 ナツメがそう言うと、シュラはナツメから目を逸らし口を開く。


「……あ、ありがとな。アサヒ様を助けてくれて。アサヒ様は俺達の光だ。失わなくて良かった」


 シュラは少し照れた様子で、精一杯の褒め言葉を言う。ナツメは一瞬キョトンとした顔を浮かべるも、ニカッと歯を見せ笑った。


「約束したからな。助けるって」

「……そ、それに」

「?」

「おおおお前も、ぶ、無事で良かった。ちょっとは認めてやる」


 ナツメは素直じゃないシュラを見て、やれやれと呆れ笑いを浮かべると、手をグーにして差し出す。


「?なんだ、これ」


 シュラは同じように手をグーにすると、ナツメはそれにピタッとグーの手をコツンと合わせる。


「友情の証」


 ナツメは口角を上げてそう伝えると、シュラは「おう……」と照れた様子で返事をし、グーの手を眺めた。


「ナツメ殿!よかったのじゃあ~!うわあぁぁん!」


 続いてサイカが目に涙を浮かべながら、ナツメに飛び付き大声で泣く。


「サイカ、よしよし。そんなに泣くなよー」


 ナツメはクスッと笑みを浮かべ宥めるようにサイカの頭を優しく撫でる。


「お前が嘘つき呼ばわりされないぐらいには、役に立ったか……?」


 ナツメは目を細めニコッと笑い問いかけた。


「もちろんじゃあ……!ナツメ殿はこの地を救った英雄じゃ!……でも、でも」

「?」

「ナツメ殿が死ぬくらいなら、予言なんてどうでも良いのじゃー!」


 サイカは泣きじゃくりながらナツメの腕に抱き付く。


「サイカ……」


 ナツメはサイカの涙を拭いながら背中をさする。


「ナツメ殿は、元の世界に家族はいないと、だから悲しむ者はいないと言ったな!?……でもわっちは、ナツメ殿が死んだら悲しいのじゃ~」


 サイカはそう言って延々と泣きじゃくる。


「だからもう、二度とあんな悲しいこと言わないで欲しいのじゃ……“誰も悲しまない”なんて、そんな寂しいこと、言わないで欲しいのじゃ……」


 サイカの温かい言葉に触れたナツメは、目を見開き、喉の奥が熱くなる感覚を覚える。


「わっちだけじゃない、みんなもきっと悲しむのじゃ……」

「っ…………」


 ナツメの綺麗な藍色の瞳に、自然と熱い涙が溢れ、やがて大粒の涙が溢れた。

 一人でいる事に慣れていたつもりでも、こうした寄り添うような純粋な優しさに触れると、本当はずっと一人で寂しかったのだと気付かされる。
 ナツメは、まるで今まで誤魔化してきた寂しさを溢れさせるかのように肩を震わせ、涙を零し続けた。


「あれ……なんで泣いてんの、オレ」


 拭っても拭っても、決壊したダムのように溢れる涙に困惑するナツメ。

 
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