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妖怪と人間③
しおりを挟む「せいりゅうこく?」
「この国の名前じゃ。知らぬのか?星が流れる国と書く。そしてこの土地は“翠緑の地”。九尾隊の本拠地じゃ」
サイカは満面の笑みでナツメに説明をする。
「……本気で言ってんのか?日本じゃないの?トーキョーじゃないの?」
「に、にほん?と、とーきょお?なんじゃあそれ」
サイカは首を傾げ訝しげにナツメを見た。
「……坊や、この国のことを何も知らないのかい?」
クレナイの問いかけに、ナツメはふと鯉の言葉を思い出す。
“満月の日は、人間世界と魑魅魍魎の世界が繋がる日でもある“
「ち、魑魅魍魎……」
ナツメがボソッと呟くと、シキが反応する。
「そうだよ、ここは魑魅魍魎、つまり妖怪の類が生きる世界。君はもしかして、妖怪じゃないのかな?妖力が少しも感じないね」
シキは不思議そうにナツメに近付き、ナツメの背丈に合わせて膝を曲げまじまじと見つめる。くんくんと匂いを嗅ぐ仕草をすると、ナツメは驚き後退りをした。
「何すんだよっ」
「うーん。やっぱり妖力を感じない」
「妖怪な訳ねーだろ。お前らって本当に妖怪なのか?」
ナツメは驚きの表情を浮かべる。先程のシュラの耳の感触は間違いなく本物だったことを思い出し、恐る恐る問いかけた。
「さっきも言った通り、私達は狐族だ。狐の妖怪、即ち妖狐なんだよ」
シキが優しい声色でそう言うと、サイカがポンっと音を立てて小さな狐の姿に変化し、ナツメの前で飛んで見せた。
「ナツメ殿、これで信じたか!?わっちはまだ三十年しか生きておらん童だからまだちっちゃいが、そこにいるシキ様なんかはすごーくでかいのじゃぞ!」
ナツメは驚きのあまり声を出すことなく、わなわなと震える。
「ま、まじかよ……!?しかもそんな小さいのに三十路だとっ?オレより年上……本当に異世界なのかここ」
ナツメは思わずほっぺをつねるも、これが現実だと知ると呆然とした表情を浮かべた。
「けっ。妖怪を見て驚くって、アホくせーな。しかも九尾隊で一番下のサイカより年下ァ?赤ん坊じゃねぇーかよ!」
シュラは馬鹿にした表情でナツメを見る。
「俺の知ってる世界に妖怪なんていないんだからな!なんだよ赤ん坊って、この世界の年齢の基準を押し付けんなし!」
「二百年は生きねーと、この星流国じゃガキ扱いだぜ」
二人はいがみあい、やがて同時に「ふんっ」と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
クレナイは唇に指を当てて上を向くと、何かを思いついたように指を立てる。
「ああ!もしや坊や、“ニンゲン”とやらかい?」
「うん。当たり前じゃん(初めて人間かどうか聞かれた……)」
ナツメはこくりと頷いた。
シキはクレナイの言葉に、興奮した面持ちでナツメを見つめる。
「こりゃびっくり。私達が生まれるよりもうんと大昔に全滅したっていうあの“ニンゲン”か?クレナイ」
「そうさね。大昔は妖怪と人間が住んでたが、黒妖怪の八岐大蛇が出現し、妖怪は多く死んで、人間は絶滅したって話さ。最後に残った人間が、命と引き換えに不思議な力で封じたって話もあるよ」
「クレナイ様は物知りじゃ!」
「けっ。ニンゲンってのは、さっきみてーな変な力が使えんのかァ?おいナツメ、お前ダイダラボッチ倒せよ。お前が倒さなきゃ、サイカの予言がハズレってことになるぜ」
シュラは疑心暗鬼なのか、サイカを横目で見るとそのままナツメに近付き指をさす。
「は?予言?」
「おう。俺様の妹サイカは、たまーぁに予知夢を見るんだ」
シュラは得意げな表情でそう語ると、サイカは人型に戻って笑みを浮かべる。
「そうじゃ!そういうお告げを夢の中で聞いたのだ!」
サイカは仁王立ちで尻尾を揺らしながらにかっと笑みを浮かべたが、ナツメは首を傾げ眉を顰める。
「だいだらぼっちってなんだよ」
「おそらく、この国で一番大きい黒妖怪だよ」
「黒妖怪?」
「そんなのも知らねーのか面倒だな」
ナツメが首を傾げると、シュラは舌打ちをした。
「いちいち喧嘩売るな疲れる」
ナツメはむすーっとした表情を浮かべると、シキは「まぁまぁ」と二人の雰囲気を和らげ話を続けた。
「黒妖怪っていうのは、瘴気に侵された妖怪のことを言うんだ。私達のような普通に暮らす妖怪と違って、悪さをして妖怪を殺めてしまう時がある。そういった黒妖怪は、退治しないとどんどん瘴気を使って仲間を増やしてしまうから、退治をしなければならないんだよ」
シキは大剣を片手で地面から抜くと、山の方角を指差しながらさらに続ける。
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