4 / 113
妖怪と人間②
しおりを挟む「アァ?あー……最初にバーン!と出てきた時はビックリしたが、今は雑魚だ雑魚以下。妖力も全く感じねぇ。クレナイ様はこのちんちくりんを買い被りすぎだ」
シュラは「けっ」と悪態をつくとナツメから目を逸らす。
「……お前らさっきから何の話ししてんの?オレに分かるように説明しろよ!お前も、急に雑魚とか言ってんじゃねー!」
ナツメは眉を顰め、濡れた髪が鬱陶しいのか、犬のように身体を振って水を飛ばす。その水がシュラに大量にかかったため、シュラは舌打ちをしてナツメの胸ぐらを掴んだ。
喧嘩っ早い者同士睨み合う。
「オイ、天下の狐様に水飛ばすたぁ良い度胸だな」
「知らねーよ!大体何だよさっきから難癖ばっかりつけやがって!こんなふざけたもんとっちまえ」
ナツメは咄嗟にシュラの両方の狐耳を掴むと、グイッと上に引っ張る。
しかし、それは取れることなく、作り物ではない本物の感触なのに気付いたナツメは、「あれ?」と呆けた声を出し固まった。
「イッテェな、何すんだ馬鹿!耳が取れるねーだろがよ!」
シュラはナツメを突き飛ばし自身の両耳を押さえて怒鳴り散らす。
「おわっ!?」
ナツメはそのあまりの力強さにかなり後ろへ吹っ飛んで尻もちをつき、ポケットから祖父の数珠がポロッと落ちるのを見ると、それを慌てて拾ってギュッと握り締める。
「お前こそ何すんだよっ!馬鹿力で突き飛ばすことないだろ!」
「あ、あぁ?そんな力入れてねぇよ雑魚」
ナツメはぶすっとした顔で数珠を握りしめ、シュラを睨見ながら立ち上がり土埃を払った。
「オレはただ、鯉に餌やってたら池に落ちて、そしたたよく分からんところに来て、犬か狐か知らねーけどボロクソ言われて、混乱してんだよ!」
ナツメの感情に呼応するように、数珠が強く光り輝く。澄んだ夜空のような藍色の瞳は、光る数珠と共に青白く輝き、四人はその神々しさに息を飲んだ。
「なんじゃあ?急に輝きおった!」
サイカは慌てた表情でシキの後ろに隠れる。シキは大剣を盾にして様子を伺い、クレナイはただじっと扇子を広げて見守っていた。
「おいチビ、妙な技使いやがって、何のつもりだ?」
シュラが弓を構えようとすると、ナツメは口を開く。
「うるせぇ、チビって言うんじゃねえ!オレはっ……オレは、五十嵐ナツメだ!名前で呼べ馬鹿狐ェ!」
ナツメがそう叫んだ瞬間、マッシュヘアーの黒髪は、途端に白く変化し襟足とこめかみ部分の髪が肩ほどまでに伸びていった。
そして、青白い光が瞬時にシュラを囲む。
「がっ……ぁっ……てめっぇ」
シュラは青白い光を受けると途端に身体が動かなくなったため、牙を出してもがく。声もうまく出せなくなり、苦悶の表情を浮かべた。
三人は目を見開いて動揺を示す。
「おい、兄上に変なことをするな!口は悪いがこう見えて優しいのだぞ!」
サイカは小さな身体でシュラの元へ駆け寄ると、ナツメに向かって大声を出した。
その声でナツメがハッと我に帰ると、青白い光がピタリと止み、シュラは地面に倒れて咳き込む。
白く変化した髪も、元の紺色に戻りあっという間に元の髪型に戻った。
「ゲホッ……クソ、コイツなんつー力使ってんだ」
咳き込むシュラを見ると、ナツメは慌てた表情を浮かべた。
「わ、わりぃ、オレがやったのか今の」
「とぼけてんじゃねぇよ!」
「っ……んなこと言われたって」
ナツメは混乱した表情を浮かべると、シキが驚いた顔で口を開く。
「君……さっきナツメって言わなかった?」
シキの言葉を聞いた狐三人は、そういえば言っていたと目を見開き顔を見合わせる。
「え?言ったよ。オレの名前だ、チビはやめろよ」
「テメェさっき、いがっ……いがら?でがらし?って言ってたじゃねぇかよ!」
シュラはすかさず指をさして声を荒げた。
「誰が出涸らしだ!五十嵐は苗字で、名前はナツメだ。分かるだろそのぐらいっ」
「ハッ?みょうじ?ってなんだ一体!ややこしいな」
「(まじで話し通じねーじゃん、何なんだよコイツら)」
睨み合うナツメとシュラの間に入るサイカは、嬉しそうにシュラを見上げた。
「なんにせよ兄上ぇ、わっちの予知夢は大当たりじゃあ!ナツメ殿、よくぞ星流国へ来てくれた!」
サイカが手をバンザイにし喜ぶと、シュラは舌打ちをしてばつの悪そうな顔を浮かべる。
2
お気に入りに追加
790
あなたにおすすめの小説

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

宰相閣下の絢爛たる日常
猫宮乾
BL
クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。
転生したら召喚獣になったらしい
獅月 クロ
BL
友人と遊びに行った海にて溺れ死んだ平凡な大学生
彼が目を覚ました先は、" 聖獣 "を従える世界だった。
どうやら俺はその召喚されてパートナーの傍にいる" 召喚獣 "らしい。
自称子育て好きな見た目が怖すぎるフェンリルに溺愛されたり、
召喚師や勇者の一生を見たり、
出逢う妖精や獣人達…。案外、聖獣なのも悪くない?
召喚師や勇者の為に、影で頑張って強くなろうとしてる
" 召喚獣視点 "のストーリー
貴方の役に立ちたくて聖獣達は日々努力をしていた
お気に入り、しおり等ありがとうございます☆
※登場人物はその場の雰囲気で、攻め受けが代わるリバです
苦手な方は飛ばして読んでください!
朔羽ゆきさんに、表紙を描いて頂きました!
本当にありがとうございます
※表紙(イラスト)の著作権は全て朔羽ゆきさんのものです
保存、無断転載、自作発言は控えて下さいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる