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妖怪と人間②
しおりを挟む「アァ?あー……最初にバーン!と出てきた時はビックリしたが、今は雑魚だ雑魚以下。妖力も全く感じねぇ。クレナイ様はこのちんちくりんを買い被りすぎだ」
シュラは「けっ」と悪態をつくとナツメから目を逸らす。
「……お前らさっきから何の話ししてんの?オレに分かるように説明しろよ!お前も、急に雑魚とか言ってんじゃねー!」
ナツメは眉を顰め、濡れた髪が鬱陶しいのか、犬のように身体を振って水を飛ばす。その水がシュラに大量にかかったため、シュラは舌打ちをしてナツメの胸ぐらを掴んだ。
喧嘩っ早い者同士睨み合う。
「オイ、天下の狐様に水飛ばすたぁ良い度胸だな」
「知らねーよ!大体何だよさっきから難癖ばっかりつけやがって!こんなふざけたもんとっちまえ」
ナツメは咄嗟にシュラの両方の狐耳を掴むと、グイッと上に引っ張る。
しかし、それは取れることなく、作り物ではない本物の感触なのに気付いたナツメは、「あれ?」と呆けた声を出し固まった。
「イッテェな、何すんだ馬鹿!耳が取れるねーだろがよ!」
シュラはナツメを突き飛ばし自身の両耳を押さえて怒鳴り散らす。
「おわっ!?」
ナツメはそのあまりの力強さにかなり後ろへ吹っ飛んで尻もちをつき、ポケットから祖父の数珠がポロッと落ちるのを見ると、それを慌てて拾ってギュッと握り締める。
「お前こそ何すんだよっ!馬鹿力で突き飛ばすことないだろ!」
「あ、あぁ?そんな力入れてねぇよ雑魚」
ナツメはぶすっとした顔で数珠を握りしめ、シュラを睨見ながら立ち上がり土埃を払った。
「オレはただ、鯉に餌やってたら池に落ちて、そしたたよく分からんところに来て、犬か狐か知らねーけどボロクソ言われて、混乱してんだよ!」
ナツメの感情に呼応するように、数珠が強く光り輝く。澄んだ夜空のような藍色の瞳は、光る数珠と共に青白く輝き、四人はその神々しさに息を飲んだ。
「なんじゃあ?急に輝きおった!」
サイカは慌てた表情でシキの後ろに隠れる。シキは大剣を盾にして様子を伺い、クレナイはただじっと扇子を広げて見守っていた。
「おいチビ、妙な技使いやがって、何のつもりだ?」
シュラが弓を構えようとすると、ナツメは口を開く。
「うるせぇ、チビって言うんじゃねえ!オレはっ……オレは、五十嵐ナツメだ!名前で呼べ馬鹿狐ェ!」
ナツメがそう叫んだ瞬間、マッシュヘアーの黒髪は、途端に白く変化し襟足とこめかみ部分の髪が肩ほどまでに伸びていった。
そして、青白い光が瞬時にシュラを囲む。
「がっ……ぁっ……てめっぇ」
シュラは青白い光を受けると途端に身体が動かなくなったため、牙を出してもがく。声もうまく出せなくなり、苦悶の表情を浮かべた。
三人は目を見開いて動揺を示す。
「おい、兄上に変なことをするな!口は悪いがこう見えて優しいのだぞ!」
サイカは小さな身体でシュラの元へ駆け寄ると、ナツメに向かって大声を出した。
その声でナツメがハッと我に帰ると、青白い光がピタリと止み、シュラは地面に倒れて咳き込む。
白く変化した髪も、元の紺色に戻りあっという間に元の髪型に戻った。
「ゲホッ……クソ、コイツなんつー力使ってんだ」
咳き込むシュラを見ると、ナツメは慌てた表情を浮かべた。
「わ、わりぃ、オレがやったのか今の」
「とぼけてんじゃねぇよ!」
「っ……んなこと言われたって」
ナツメは混乱した表情を浮かべると、シキが驚いた顔で口を開く。
「君……さっきナツメって言わなかった?」
シキの言葉を聞いた狐三人は、そういえば言っていたと目を見開き顔を見合わせる。
「え?言ったよ。オレの名前だ、チビはやめろよ」
「テメェさっき、いがっ……いがら?でがらし?って言ってたじゃねぇかよ!」
シュラはすかさず指をさして声を荒げた。
「誰が出涸らしだ!五十嵐は苗字で、名前はナツメだ。分かるだろそのぐらいっ」
「ハッ?みょうじ?ってなんだ一体!ややこしいな」
「(まじで話し通じねーじゃん、何なんだよコイツら)」
睨み合うナツメとシュラの間に入るサイカは、嬉しそうにシュラを見上げた。
「なんにせよ兄上ぇ、わっちの予知夢は大当たりじゃあ!ナツメ殿、よくぞ星流国へ来てくれた!」
サイカが手をバンザイにし喜ぶと、シュラは舌打ちをしてばつの悪そうな顔を浮かべる。
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