星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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妖怪と人間①

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 ナツメは、纏わりつく水の感触が消えたと同時に目を覚ます。
 大きな満月が目に飛び込み、満点の星空がナツメの心を一瞬奪った。所々流れ星も見え、ナツメの藍色の瞳はそれを映しキラキラと輝く。


「うわー、綺麗……」


 感動したのも束の間、自分が湖から飛び出し宙に浮いていたことに気付くと、ナツメは目を見開く。


「う、うあぁぁ!!!落ちるー!!!!!ぎゃーーー!!!」


 高く飛び上がって、後はそのまま下に落ちるのみ。このままでは水面に叩きつけられてしまうと思ったナツメは、大声で叫んだ。


「クレナイ、助けてやってくれ。あの焦りよう、自力では飛べないらしい」


 シキは叫ぶナツメを心配し、困り顔でクレナイの方を見る。


「ほいさ」


 クレナイが扇子を一度振ると、ふわっとした柔らかな風が吹きナツメを包み込む。


「えぇっ?浮いてんのオレ……なにこれ。てかどこ?」


 ナツメはそのまま風に助けられ、ふよふよとゆっくり下降し、地面に降り立った。



「「「「……」」」」


 ナツメの目の前には、和装をした四人組が、品定めをするようにまじまじとナツメを見つめている。
 逆にナツメも、四人をジロジロと見つめて眉を顰めた。


「え?犬のコスプレ……?」


 ナツメはボソッと呟く。


「こ、こすぷれ?とはなんじゃ?」


 サイカは尻尾をふさふさと揺らしながら困った顔でナツメの呟きを拾う。コスプレのイントネーションが可笑しいため、ナツメは首を傾げる。


「い、いや……分かんないでやってんのか?あのさ、ここどこ?あんたらなんで犬の格好してんの?なんかすげー服着てるし」


 ナツメの言葉にシュラの耳がピクリと動く。


「オイだれが犬だ!狐だ狐ェ!それにお前の格好の方が、よっぽど変だぞチビ助」


 シュラは牙を剥き出しにして怒りを表すと、ナツメは思わず苛ついた表情を浮かべる。


「あぁんなんだいきなり!チビって言うな!学ランのどこが変なんだよっ。学生なんて、学ランかブレザーが一張羅だろうが!」

「あ?がくらん?ぶ、ぶれざあ?なんかの呪文か気色悪りぃ!」


 シュラは顔を引き攣らせ、ナツメに顔を近付けて喧嘩を売るような態度を取る。


「(あれ……なんか話が通じない気がする。馬鹿なのコイツ)」


 ナツメは目を細め、頭を抱えて状況の理解をしようとするも、まず池に落ちたはずが見知らぬ場所に移動しているというところから不可解だ、ということに気付き一度湖を見た。
 池に吸い込まれて、変な渦に巻き込まれ湖に繋がったと無理矢理解釈するナツメは、また前を向く。
 目の前の四人組は、全員目が赤い。カラーコンタクトなのかとも思ったが、かなり自然に見えた。


「まあ落ち着けシュラ。すまないね、私たちはここら一帯を治める“狐族・九尾隊”の者だ。私はシキ。扇子を持った女がクレナイで、弓矢を持っているのがシュラ、小さいのがサイカだ。君の名を聞かせてもらえないか?」


 物腰柔らかいシキの雰囲気だが、言っている事がイマイチわからないナツメは首を傾げる。
 とりあえず名前を聞かれたため、ナツメは口を開いた。



「い、五十嵐いがらしだけど……」


 ナツメは自分の苗字を名乗ると、四人は目を丸くする。


「ん?いが、らし?」


 シキは首を傾げ困り顔を浮かべる。


「オイ!サイカぁ!言ってる名前とちげーだろうが!もう解散だ解散!!」

「うっ……で、でも予知夢では確かにそう見たのじゃー!実際に湖から出てきたではないか!!何故信じぬのだ兄上ー!それにほら、目の煌めいて不思議な色をしているのだー!」


 サイカは目を潤ませ、手をバタバタと上下に振って反抗する。


「(なんで喧嘩してんだ?てかここどこだよまじで)」


 ナツメはじとーっとした顔でそのやり取りを見届けながらも、辺りの光景を見て驚く。
 ビルがひとつもなく、あるのは鬱蒼としげる森と、自分が出てきた湖だった。


「(どっかの樹海なのか……?)」


「まあ待てシュラ。とりあえず話を聞こうさね。この坊やが普通じゃないの分かるだろう?」


 クレナイはようやく口を開き、にこりと美しい笑みを浮かべてナツメを見つめる。
 湖から浮き上がった時ほどの力は無いが、感じたことのない正体不明の力がナツメから感じるクレナイは、ナツメが気になって仕方が無かった。

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