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倒れるナツメ
しおりを挟む「……ナツメ殿、わっちより泣いてるのじゃあ!」
自分よりも涙を流すナツメの姿を見たサイカは、いつの間にかピタッと泣き止み、可笑しそうに笑みを浮かべた。
「あはは、なんか止まんねーんだもん」
ナツメは涙を浮かべたまま釣られて笑みを浮かべる。
「ナツメ殿はわっちより年下だから、泣き虫なんじゃー!」
「そうかもな!」
大口を開けて楽しそうに笑うナツメに、狐達も顔を綻ばせた。
「……ありがとう、サイカ」
ナツメはサイカの小さな手を取ってキュッと優しく握ると、心底嬉しそうに表情を緩ませた。
アサヒはそんなナツメの涙を自然に手で拭ってみせると、寄り添うようにナツメの額に自分の額をくっつける。狐達はアサヒの行動に驚いた表情をした。
「っ、な、何すんだよ……!?(顔近い……!)」
ナツメは突然の事に顔を赤らめ、口をパクパクさせて驚きの表情を浮かべる。
「いや、最初に背に乗せた時より体が熱い気がしたんだよ。……んだよ、お前だってダイダラボッチの中で俺にやったじゃねーか、忘れたとは言わせねーぞ」
「覚えてんのか……」
動揺するナツメに対し、アサヒは首を傾げ拗ねたように口を尖らせた。
「で、体は平気か?」
アサヒはナツメを抱えスッと立ち上がる。
「多分大丈夫、歩けるよ(ちょっとふらふらするけど……本当に熱でもあんのかな?この世界に体温計ってあんのか?)」
アサヒはそっとナツメを降ろすと、ナツメは少し具合が悪そうに表情を歪めた。
「無理したらアカンよ、ナツメちゃん。具合悪そうやで?」
「わっ!ヒイラギ様……だよな?髪が緑だし」
ナツメは人型になったヒイラギを初めて見たため、一瞬驚きの表情を浮かべる。
淡い緑色の髪で、少し長めの襟足を後ろで束ねた吊り目の青年姿をした妖狐。首には鈴のついた腰まである白い縄をつけ、黒が基調の袈裟を着ていた。
「せやでー!なぁ、なんか寂しいから、僕も呼び捨てにしてーや。仲間はずれみたいで嫌やし。ええやろ?な?」
ヒイラギはナツメの近くに素早く寄ると、手を握り締め嬉しそうに笑みを浮かべる。
「ええっ?」
アサヒと同じくらいの背丈があるヒイラギは、ナツメを見下ろしニコニコと笑みを浮かべ続ける。
「い、いいのか?アサヒ。違う土地の偉いひとなんだろ?」
ナツメはくるっとアサヒに振り向き、九尾隊としての体裁を気にして問いかける。自分に許可を得ようとするナツメの姿に、アサヒは少し嬉しそうに表情を緩めた。
「ふん、ヒイラギが良いって言うなら良いだろ」
「アサヒが良いって言うなら、じゃあ……ヒイラギって呼ぶ」
ナツメは少し遠慮がちな声色でヒイラギを呼ぶと、ヒイラギは満足そうに笑みを浮かべた。
「アサヒ、この可愛い子、西に持って帰ってええ?」
ヒイラギは揶揄うような満面の笑みでアサヒに問いかけると、アサヒは苛ついた表情を浮かべヒイラギの手を無理矢理ナツメから引き剥がす。
「良いわけねーだろ。このちんちくりんは俺のだ」
アサヒはナツメの前に立ち、ヒイラギを睨み付け自然にそう言って退けるも、他の狐達は目を丸くした。
ナツメ自身も首を傾げ多く瞬きをする。
「え、やっぱりそーなん?アサヒのなん?なんや、はよ言うてや~」
「アサヒはナツメが愛いみたいさね~」
ヒイラギとクレナイのニヤニヤ顔で自分の発言の恥ずかしさに気付いたアサヒは、顔を真っ赤にして口を開く。
「ば、馬鹿野郎!!そーゆう意味じゃねえ……!こっ、コイツはサイカの予言で出た奴なんだから、九尾隊のモノって意味だ!へ、変な意味で捉えるな!誰がこんなちんちくりん」
「ちんちくりんって何回も言ってんじゃねーぞ、死にかけ狐が」
ナツメはアサヒの銀髪を引っ張り、不服そうに見上げる。
「てめっ、俺の髪を引っ張るんじゃねぇ!この妖力の籠った銀髪をありがたがる妖怪もいるんだぞ、知らねーのか!」
「知らねー。キラキラして綺麗だけど、別に貰って取っとくほどじゃねーだろ。食えんの?」
ナツメは鼻で笑いベーっと舌を出し言い返す。
「いやー青春だねぇ」
シキは喧嘩をする二人を眺めて呑気にそう呟く。
「ったく、帰るぞ。とりあえずクタクタだ、休もう」
一通り喧嘩をして落ち着いたアサヒは、狐の姿に変化して、今度は予め屈んでナツメの前に伏せる。
「乗れ」
「うん。でも今よじ登る力ねーから、鼻踏んで頭から乗って良い?」
「なっ…………クソッ、今日だけだぞ」
アサヒは大きな溜息を吐いて承諾すると、ナツメはアサヒの頭の方へ移動するために歩き出す。
すると、突如今までに感じたことのない目眩を覚え、ナツメの足がピタッと止まった。視界が揺らぎ、平衡感覚が失われる。
「どうしたナツメ」
異変に気づいたアサヒは、ナツメを見て声をかける。ナツメは虚ろな表情でアサヒ向かって手を伸ばし口を開いた。
「ごめんアサヒ……歩けな……」
ナツメはそう言いかけて意識を失う。
「ナツメ!!!」
アサヒは尻尾を使いナツメを寸前で受け止める。
「ナツメ殿!?どうかしたのか!?」
サイカはナツメの近くに寄り様子を伺う。意識はないが、苦しそうに呼吸をし身体が熱くなっていたため、サイカは不安げにアサヒを見る。
「アサヒ様、ナツメは苦しそうに呼吸をしてて、体がすごく熱いのじゃ!」
「……すぐに九尾御殿に帰るぞ」
アサヒは一瞬失意の底を見たように表情を歪めると、ナツメを心配そうに見ると優しく体を咥えて凄まじい勢いで飛び立った。
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