星流国の狐族〜池に落ちたら、妖怪しかいない異世界にワープした!?〜

みるくくらうん

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ダイダラボッチ

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「(なんか、狐の妖怪に乗って山目指してるけど……オレなんかが行ってどうにかなるのか?)」


 ナツメはそんなことを思いながら、シュラの背にしがみついてふと振り返る。
 自分が知らない土地の風景。本当に異世界に来てしまったのだと実感したナツメは、少し身震いをして前を向き直した。
 不安じゃないと言えば嘘になるが、狐族の九尾隊と名乗る四人の妖怪達は、ナツメを傷付けようとはしなかった。

 だが、サイカはナツメがダイダラボッチを倒すと予言しているが、ナツメは倒す術を知らない。このままついていっても、自分に何かできるのかと自問していた。


「(オレは一体何のためにここに?)」


 ナツメは再び鯉の言葉を思い出す。
 

 “今からお前が行く場所は異世界。そこにはお前と魂で繋がった者がいる。名を“アサヒ”。其奴を探して、二人で世界の均衡を保つために働いてくるがいい”


「(そうだ、アサヒってやつならなんか知ってるのかも!)」


 ナツメはシュラとサイカに向かって口を開く。


「なぁ、お前ら!」

「あ?」
「なんじゃナツメ殿」


 サイカはふよふよと浮いてナツメの近くに行く。


「あのさ、“アサヒ”ってやつ知ってる?」


 ナツメがそう伝えると、二人は一瞬驚きの表情を浮かべた。


「ナツメ殿、アサヒ様を知っているのか?」


 サイカは驚いた表情のままナツメに問いかける。


「いや、全く知らないけど……ここに来る前に、喋る鯉がいてさ。アサヒって奴がオレと魂が繋がってるーとか何とかで、二人で協力しろって言ってきたんだ。オレはダイダラボッチを倒す方法知ってるわけじゃねーし、そいつと話せばどうにかなるかなって」

「なるほどなあ、そんなことがあったのじゃな。実はアサヒ様は、わっちら九尾隊の首領じゃ!尻尾が九つもある妖狐で、最も上位の狐じゃから、すごーく強いのだぞ」


 サイカは手を大きく広げて笑みを浮かべる。


「へぇ、そうなのか。そいつ今どこにいんの?」


 シュラは悪妖怪となった鳥の攻撃を避けながら話をする。


「もう一週間は翡翠山に籠りっきりで、平地に瘴気が行かないように結界を張り続けてた。結界でダイダラボッチを少しずつ弱らせてるようだが、あの巨体から出る瘴気が邪魔でなかなか思うようにいかないらしいぜ」

「ふーん……お前らの首領でも苦戦してんのに、人間のオレがどうしろって言うんだ?」


 ナツメはじとーっとした目でサイカを見る。


「うっ……」

「オメーがへっぽこなのは分かってるけどよォ、さっきの変な力使ってどうにかできねーのかァ?あれは初めて感じた異様な力だったぜ」


 シュラは、先程金縛りのような目にあった事を引き合いに出して提案するも、ナツメは首を傾げ腕を組みながら困った表情を浮かべた。


「そうは言われてもさ……オレだってよく分かんないだよっ。あーなる前に、この数珠から変な感じはしたけど」


 ナツメがお守りがわりに祖父の形見である数珠を腕につけると、サイカが不思議そうにながめる。


「ほう、数珠かー。それは宝具か何かなのか?確かにキラキラ煌めいて不思議な力を感じるの」

「宝具?いや、死んだじーちゃんの形見だよ。じーちゃんは毎日これをつけてぶつぶつ唱えてから寝てた」

「死んだのか?」

「うん。寿命ってやつだよ。八十六で死んだ」


 ナツメは「ま、大往生だろ」と付け加え小さく笑った。


「ほー。殺されず寿命で死ぬとは、幸せじゃのー。でもニンゲンはそれだけしか生きられないのか。儚いのう……そう思わぬか兄上」


 サイカの問いかけに、シュラは鼻で笑いつつも、先程ナツメを突き飛ばした事を思い出す。妖力のない者を相手にしたことがないため、少しでも力加減を間違えると死に至らしめるという事に気付いたシュラは、一瞬顔を顰めた。


「ふん、ニンゲンってのは、寿命が短ぇ、飛べない、妖力がない、弱ぇ。欠点だらけじゃねーか。瘴気が見える以外に良いとこねーの?」

「お前なぁ……」


 ナツメは呆れ顔でグッと怒りを抑える。


「妖力がないということは、ニンゲンは怪我をしたらどうやって治すのじゃ?わっちら妖怪は、擦り傷程度ならすぐ治せる。骨が折れれば一日、腕が取れれば三日ぐらいはかかるじゃろうなぁ」

「す、すげーなあ……。ニンゲンは派手に擦りむいたら一週間ぐらいはかかるかなー。場所によるけど、骨が折れたら完治するのにひと月以上はかかると思う」


 サイカはナツメの回答に、目を飛び出す勢いで驚きを示した。


「なにっ!?そんなにかかるのか!?そうか、ニンゲンとはか弱い生き物なのだな……大事にせねばのー。うむ、わっちがナツメ殿をダイダラボッチから守ってあげるのじゃ!」


 サイカは無邪気な笑みを浮かべてナツメの肩に乗ると、ナツメは少し笑みを浮かべた。


「こんなちっちゃい女の子に守られるのか……情けないなオレ。いや、でも年上なのか……」


 ナツメはそう言って苦笑する。
 翡翠山は徐々に近付き、瘴気が濃くなってきたため、ナツメは眉を顰めた。
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