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底無しの湖
しおりを挟む~魑魅魍魎の世界・底無しの湖~
「なぁサイカ、本当にこんな真夜中に“ナツメ”とやらが現れるのかい?もう一時間は経っているけど……」
金髪赤目、狐の耳が生えた体格のいい男”シキ“が、大剣を地面に突き刺し困った表情を浮かべる。
見た目に反して物腰柔らかな雰囲気を放ち優しそうな青年だが、放つ妖気は強者そのものだった。
「絶対に現れるのじゃ!この誰も近付かない“底無しの湖”から、別世界の“ナツメ”という男がやってくる。そやつが不思議な力を使って、“ダイダラボッチ”を滅するという予知夢!わっちを信じるのじゃ。キラキラした綺麗な瞳を持つ男なのじゃ!」
“サイカ”と呼ばれた淡い茶髪のツインテールで赤目の女児は、小さな牙を剥き出しにしてそう叫ぶ。サイカにも狐耳が生えており、ふさふさの尻尾が五つに分かれていた。
どうやら予知夢を見る特殊能力があるのか、仲間を引き連れて底無しの湖に来た様子だった。
「本当かよ。こうしてる間にも、ダイダラボッチのせいで、俺たち狐族が治める土地一体は瘴気で侵されちまってやがる。善良な妖怪の民も怯えているしよォ。このままじゃ、この土地が終わるのも時間の問題だな」
黒髪で長髪を三つ編みにし後ろに束ねた赤目の男”シュラ“は、この世を終わりだと言わんばかりの表情を浮かべる。
この男も狐耳が生えており、サイカと同様に五つの尻尾を揺らしながら湖を眺めていた。
「兄上!士気が下がるようなことを言わないでください!」
サイカは口の悪い兄を可愛らしい声で嗜め、ムスッとした顔で怒りを露わにすると、シュラは鼻を鳴らし不機嫌そうに地面に座る。
「だってよォ。たった一年で黒妖怪がアホみてーに増えて被害が出てる。その所為でこの国はどんどんまともな妖怪が住める土地が減ってるしよォ。
ダイダラボッチ。ありゃ最悪だ。森にいた位の低い妖怪を瘴気で黒妖怪にしてしまいやがった。これじゃいくら黒妖怪を払ってもキリがねぇ」
シュラは背中に背負った矢を一本取り出すと、横を向いて座ったまま弓矢を引いて矢を放った。近くにいた黒妖怪に矢が貫通すると、黒妖怪は溶けるように消えていく。
「確かに危険な状態ってのは否めないねぇ。今アサヒがなんとかダイダラボッチを抑えているけどさ、アイツはまだ若いから九尾の力が存分に出せるわけじゃないさね。
豊富な妖力と翠緑の地の加護でなんとかなってるけど、こりゃもう神様にでも縋りたい気分だよ。そんな時にサイカのそんな予言が出たら期待しちまうってのが普通さね」
扇子を持った上品な出立ちの赤髪赤目かの女“クレナイ”は、扇子を開いて口元を隠しながら憂いた瞳で湖を見る。
クレナイにも狐耳が生えているが、サイカとシュラ以外は妖力で尻尾を隠しているようだった。
この四人は狐族の最上位に位置するメンバーの印として、額に赤い宝石が出現している。
「ま、久しぶりにまともな予知夢が出たんだし、期待してやるかァ」
シュラは意地悪な笑みを浮かべてシキを見る。
「なにをー!兄上はすぐわっちを馬鹿にする!」
シキは頬を膨らませ大きな瞳でシュラを睨みつけた。
「だってよぉ、前の予知夢なんか、クレナイ様が狐御殿の屋根で酔っ払って寝るっていうしょーもないやつだったじゃねぇかよ」
「でも当たっていたではないか!」
「あっはっは、いつものことさね」
クレナイは可笑しそうに笑い声を上げ、真っ直ぐで美しい赤髪を揺らす。
「なぁ、湖の真ん中が渦を巻いているけど……」
ずっと湖を見つめていたシキは、突如底無しの湖の真ん中に現れた渦に動揺し指をさす。その言葉に全員が湖に注目し、目を見開いた。
「なにかね、これは……妖力でも、瘴気でもない……不思議な力を感じるさね」
クレナイは驚きの表情でその様子を凝視すると、シュラは慌てて立ち上がって訝しげにその様子を見た。
「おい、誰か出てきた!」
シュラは渦の中心から誰かが出てくるのを確認すると、湖の方へ近付いて大声で叫ぶ。
魑魅魍魎の世界で感じたことのない不思議なオーラを放つ少年に、一同は動揺を隠せずただただそれを見守った。
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