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催事場フロア

人の好みとは

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 カーテンの向こうから奪が連れてきたのは、あのイケメンの霊だった。

「こんばんはー。
 灯りついてるけど、カーテン閉まってたんで。

 今の時間、やってないんですか?

 って、あっ、なつかしーっ。
 運動会のときの花じゃないですか」

 テーブルの上に山盛りになっている花に気づいて、彼は喜ぶ。

「いやー、楽しそうですねえ。
 僕も作ってみたいなー」

「え? 自ら?」

 あげはは思わず、そう言っていた。

 霊自ら手伝ったパターンは、今までなかったからだ。

「あの、運動会の入場門を作ろうって話になったんですが。
 これで成仏できますか?」

 不安になって訊いたあげはに、男は、
「は? 成仏?」
と訊き返してくる。

 奪が溜息をついて言った。

「そいつを成仏させるな。
 生きている人間の男だ」

「この人はお前が気に入ってるんじゃないのか?
 それで、お前に、よくここに来るのかって訊いたんだろ?

 課長は気づいてたんじゃないのか?」

 奪を振り向き、エンは言う。

「まあ、ナンパっぽいなとは思ったんだが。
 俺もここに来る奴は霊、という思い込みがあったから」

「え……て、いや、そんな」

「今もカーテンの隙間からお前の姿が見えたから、声をかけてきたんだろ?」
とエンが言うと、男は、いや~、と頭を掻いている。

「見た目だけは、素直そうで可愛らしい感じだからな」

 奪は、あげはを見ながら、残念なものを語るように言い、エンは、

「まあ、人の好みはそれぞれ……」
と突き放したようなことを言っていた。


「ほんとうに迷い込まれた方だったんですねー」

 結局、一緒に作業しながら、あげはは男に言った。

 よく考えたら、霊じゃないなら、これ作ってもなにも成仏とかしないのだが。

 やりはじめたので、止められなかった。

「そう言えば、あのとき、自分で灯りをつけただけで、百貨店が煌めいて息を吹き返したわけじゃなかったですね……」
とあげはは思い出す。

「行ってみたら、あっち、廃墟のままだったから。
 生きた人間なんだなとは思ったんだが。

 普通、生きた人間は玄関から入ってこないから。

 生きる覇気のない奴が入ってきたのかなと思って」

 ここにたどり着けた以上、願いを叶えてやろうと思った、とエンは言う。

「ところで、なんで運動会の話になったんだ」

 小器用に花を作りながら、奪が問う。

「はあ、この人が僕の姿を見た瞬間、何故か、かけっこのときのスタートのポーズをとったので。
 懐かしいなと思って」

「……お前は何処に向かって走り出そうとしてたんだ」

 上司の言うことにすぐ対応できる未来に向かってか、とまた嫌味をかまされる。

「いや、霊の人かと思ったから、急いでエンさんを呼びに行こうとしてたんです」

「お前、そんな運動会のかけっこポーズの女の何処がよかったんだ」

「いや~、すごく魂の奥深くを揺さぶられまして」

 懐かしいなって、と彼は笑う。

「そして、過去のいい記憶が蘇ったんです。
 あの頃、僕はヒーローでした」

 ……いや、小学校の運動会までさかのぼらないと良い記憶がないってどうなんだ、と思う。



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