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化粧品フロア
仕事だ、助手
しおりを挟む「フカフカのパン!
美味しかったですっ」
食べたあと、あげはは近くを通りかかったエンにそう言った。
「ありがとう。
パン屋を褒めてやれ」
そこの先の老舗のパン屋だ、とエンは言う。
「珈琲も美味かったな」
と奪が言うと、
「西の角の珈琲屋が淹れて持ってくるんだ。
珈琲屋を褒めてやれ」
と言う。
「フルーツのカッティングも綺麗でした」
「それは、裏のスナックのおばちゃんが切ってくれている」
おばちゃんを褒めてやれ、と言うエンに、
「……この店は寄せ集めで出来てるのか?」
と奪は言い、あげはは、
それらの人々は生きているのですか?
と思っていた。
「卵は焼いてるし。
紅茶は自分で淹れてるぞ。
あと、いろいろ試作品は作ってみてる」
とエンは言う。
ん? とエンが百貨店の方を見た。
「あの客が下りてきたようだ」
香水を欲しがっているあの娘さんに動きがあったようだ。
「助手」
とエンはこちらを見る。
今、エンは手が離せないからだろう。
「私、今から仕事ですっ」
奪は腕時計を見、
「おっと、もう時間だ。
じゃあな、久嗣」
と五百円玉を置いて立ち上がり、行こうとする。
「いや、待ってくださいっ。
私も行きますよっ」
「まだ時間はあるだろ。
ちょっと手伝ってやれよ」
「え……」
「遅れたら、『久嗣、連絡なしで欠勤』ってことで」
「今、言ってるじゃないですか~っ」
「久嗣はあやかしの手伝いをするから遅れるそうですとか報告できるか」
じゃあ、と薄情な奪は行ってしまった。
「こんにちは、こんばんは、お邪魔します~」
いろいろ言ってみながら、あげはは、そっと百貨店の方に行ってみた。
彼女はまた香水売り場にいたので、そこ以外はまた、ぼんやりとして見えた。
香水の香りを嗅いでみては、ちょっと寂しげだ。
「望む香水に出会えないのは――
あの記憶が私から遠くなってしまっているからかしら?」
ここに自分がいると知っているからなのか。
それとも、独り言なのか。
彼女はそんな言葉を呟いた。
縁もゆかりもない人だけど。
そんな姿を見ていると、この人のためになにかしてあげたいなと思ってしまう。
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