上 下
99 / 114
プレオープンですっ!

結局、猫好きか

しおりを挟む
「何代か住む人間は変わったと思うが。
 お前たちの前の住人なんかは、あの呪いの部屋を開けることなく、引っ越していったようだから。

 私も猫も祟り神も眠ったままだったのだろうな」

「私が余計なことをして、封印を解いてしまったわけですね」
とのどかが言うと、

「いやいや、何処かで我々は決着をつけなければならなかったのだ」
と泰親は言った。

「でも、封印が解かれない間は、祟り神もずっと眠っていたんですよね」

「奴は早くから、眠りがちだったよ。
 祟ることに疲れていたのだろうかな。

 人間が腹を立て続けると精神を消耗するのと同じ感じなのかもしれないな。

 そう――。
 だから、私があの猫を浄化してやれば、それで終わりだったのかもしれないが」

 ……なんだかできなくて、と泰親は言う。

「そういえば、あのとき退治できなかったのも。
 震えるように私を見上げてきたまん丸な瞳が可愛かったから」

 結局、猫好きか。

「でも、その猫は今でも、ご主人様のために、若い男を探し歩いているんですね……」

 語り口調はしんみりだったが、のどかの頭の中では、『若い男を探し歩いている』というフレーズのせいで、昨日、プレオープンで騒いで、例の呪いのイケメン高校生に絡んでいた風子たちが思い浮かんでしまっていた。

 猫、ごめん、と風子たちではなく、猫に心の中で謝ったとき、後ろで声がした。

「あの猫は、私を主人が受け取るまで、満足できないのかもしれないなあ」

 えっ? と振り返ると、見知らぬおじいさんが立っていた。

 そのおじいさんは、この土地の持ち主だと言う。

 おじいさんはその木を見上げ、
「子どもの頃から、不思議な夢を見ていたのですよ。
 今、貴方たちの話を聞いて、その意味がわかりました。

 私はおそらく、その祟り神をフッた人間の息子の生まれ変わり」

 いや、フッた当人ではないのですか……と思うのどかの前で老人は泰親が作った猫の塚に向かい、言った。

「私はもう充分生きた。
 それで気がすむのなら、連れて行くがいい」

 すると、泰親から猫耳が消えた。

 彼の横に、愛らしい三毛猫が立っている。

 三毛猫は、なー、と鳴いて、おじいさんを見る。

 可愛いっ、とのどかは悶絶していた。

 今、綾太が居なくてよかった、と思う。

 空気も読まずに、この場から猫を連れ去ってしまいそうだからだ。

 猫は自分についてくるよう、おじいさんに言う。

 そして、桜の木の下に行くと、もう一度鳴いた。

 あっ、と青田が声を上げる。

「そうだ。
 思い出したっ。

 この近くを通っていたら、フラフラとこの木に吸い寄せられて、此処で靴を脱いだんです。

 何処の家に上がるみたいに」

 どうやら、この木が、あの呪いの部屋につながっているようだった。

 なー、と猫は鳴くが、なにも起こらない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。 干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。 と思っていたら、 初めての相手に再会した。 柚木 紘弥。 忘れられない、初めての1度だけの彼。 【完結】ありがとうございました‼

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~ その後

菱沼あゆ
キャラ文芸
咲子と行正、その後のお話です(⌒▽⌒)

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

愛のない政略結婚で離婚したはずですが、子供ができた途端溺愛モードで元旦那が迫ってくるんですがなんででしょう?

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「お腹の子も君も僕のものだ。 2度目の離婚はないと思え」 宣利と結婚したのは一年前。 彼の曾祖父が財閥家と姻戚関係になりたいと強引に押したからだった。 父親の経営する会社の建て直しを条件に、結婚を承知した。 かたや元財閥家とはいえ今は経営難で倒産寸前の会社の娘。 かたや世界有数の自動車企業の御曹司。 立場の違いは大きく、宣利は冷たくて結婚を後悔した。 けれどそのうち、厳しいものの誠実な人だと知り、惹かれていく。 しかし曾祖父が死ねば離婚だと言われていたので、感情を隠す。 結婚から一年後。 とうとう曾祖父が亡くなる。 当然、宣利から離婚を切り出された。 未練はあったが困らせるのは嫌で、承知する。 最後に抱きたいと言われ、最初で最後、宣利に身体を預ける。 離婚後、妊娠に気づいた。 それを宣利に知られ、復縁を求められるまではまあいい。 でも、離婚前が嘘みたいに、溺愛してくるのはなんでですか!? 羽島花琳 はじま かりん 26歳 外食産業チェーン『エールダンジュ』グループご令嬢 自身は普通に会社員をしている 明るく朗らか あまり物事には執着しない 若干(?)天然 × 倉森宣利 くらもり たかとし 32歳 世界有数の自動車企業『TAIGA』グループ御曹司 自身は核企業『TAIGA自動車』専務 冷酷で厳しそうに見られがちだが、誠実な人 心を開いた人間にはとことん甘い顔を見せる なんで私、子供ができた途端に復縁を迫られてるんですかね……?

おデブな私とドSな魔王さま♪

柳乃奈緒
キャラ文芸
体重があと少しで100キロの大台に到達する おデブでちょっぴりネガティブな女子高生の美乃里。 ある日、黒魔術を使って召喚してしまった 超ドSな魔王に、何故か強制的にダイエットを強いられる。 果たして美乃里は、ドSな魔王のダイエットに耐えられるのか?そして、ハッピーエンドはあるのだろうか?

処理中です...