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社長っ、婚姻届を返してくださいっ!

走ってっ! 役所が閉まりますっ

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 そのあと全員で最終チェックをして、信也が叫んだ。

「よしっ、完成だっ。
 これで駄目だと言ったら、俺がオヤジをはっ倒すっ」
と信也が宣言し、おーっ、とみんなで拳を突き上げ、仕事は終わった。




 こんこんと眠っていました。

 日付が飛ぶほど――。


 

 喫煙しない人のスペースで死んだように眠っていたのどかは目を覚ました。

 驚くほど顔の綺麗な男が自分を見下ろしている。

 ひっ、と固まると、のどかが眠っていたソファの背に腰掛けていたその男、成瀬貴弘が笑って言う。

「こうして見ると、可愛いじゃないか。
 好みでないこともないこともない」

 今ですかっ?
 っていうか、どっちっ?
と思いながら、

「そっ、そういえば、今はいつですかっ?
 まさか、連休終わってるとかっ?」
と飛び起きると、

「そこまで飲まず食わずで寝てるわけないだろう」
と言われ、ホッとしたが、貴弘は腕時計を見、

「今、令和元年五月一日、十六時二十八分五十秒だ」
と言う。

 ひっ、と再び、のどかは息を呑んだ。

 令和元年記念に特設ブースができるので、夜間や休日預かりの婚姻届も処理されるかもという話を思い出したのだ。

 もう夕方っ。

 ってか、役所閉まるっ。

「ああ~っ、新元号のカウントダウントかもしてみたかったのに~っ」
と叫びながら、のどかは貴弘に言った。

「印鑑っ。
 印鑑くださいっ」

「宅配か」

 印鑑と通帳やろうか、妻だから、と言われてしまう。

「いりませんっ。
 さあ、印鑑持って、走ってくださいっ。

 役所が閉まってしまいますっ」
とのどかは、おのれの鞄をつかんだ。

 処理されてたら、離婚しかないか。

 ああ、結婚した覚えもないのに、戸籍に離婚歴がつくとかっ、と思いながら、貴弘を急かして、夕暮れの道をひた走ると、役所ではもう片付けが始まっていた。

「あのっ、この間、連休前に届けを出したものなんですけどっ」
と令和婚姻届け受付こっちです、みたいな立て看板を抱えて退けようとしているショートカットの女性に、のどかは慌てて話しかける。

 すると、その女性職員は振り返り、
「ああ、そうなんですか。
 おめでとうございますっ。

 いいですよ、連休前の方でも」
と微笑み言ってきた。

 は?

「ささ、そこに二人で並んで」
と白い壁に薔薇でハートが作られた壁の前に立たされ、令和のパネルを持たされる。

「はいっ、笑ってくださいねーっ」
とその職員にインスタントカメラを手に言われ、こんなとき、つい流れでゆるーく合わせてしまいがちな日本人の特性をばっちり持ったのどかは、ばっちり笑い。

 貴弘は笑ってはいなかったが、パネルは一緒に持っていた。

「あ、スマホでもお撮りしましょうか」
と机を片付けていた感じのいい男性職員にも言われ、流れで渡す。

「はいっ。
 おめでとうございます~」
と出来上がった写真と令和の記念シールと謎のゆるキャラのキーホルダーをいただいたのどかたちは、

 では、さようなら~と手を振る役所の人たちに愛想よく見送られ、うっかりそのまま帰ってしまった。



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