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社長っ、婚姻届を返してくださいっ!
いるんだよな、こういうめんどくさい奴
しおりを挟むそれからも作業は続いた。
みんなで輝かしい連休を迎えるために。
そして、連休明けのスッキリした頭で完成品をチェックし直すのだそうだ。
まあ、確かに今はなにもスッキリしていない、と思いながら、のどかは独り言のような調子でしゃべっていた。
「それでですね。
うちの実家、行き止まりなんですけど。
ときどき間違って車が入ってくるんですよ。
で、ある日、お兄ちゃんに罰として、車を磨けって言われて――」
「兄貴も居るのか。
さっき来た巨乳美女以外に」
と貴弘が言うと、それまで黙って聞いていた男たちが急にざわめき、呟き始める。
「巨乳美女……」
「……巨乳美女?」
「いつ現れたんですか、巨乳美女」
「ずるいですよ、社長」
「いや、来ただけだ。
そして、向こうは人妻だ」
と言う貴弘に、
いや、貴方も今は一応、既婚者ですけど。
婚姻届取り下げるまで、と思いながら、巨乳美女だけに反応する男どもにこれ以上話しても聞いてなさそうだが。
黙ると眠くなるので、そのまましゃべっていた。
「でも、日焼けするのが嫌だったので、夜、暗がりで車を磨いていたら。
いきなり入ってきた車のライトで、パッて照らされて。
まるで、サーチライトで照らし出された犯罪者の気分でしたよ。
そういうことってありますよね?」
「ない」
とそこだけ全員に言われる。
……聞いてないんじゃなかったのか。
「リレーアタックで車を盗もうとしてるやつだと思われたんじゃないか?」
と信也が言い、
「犯罪者なら、ライトで照らし出されるようなマヌケはしないだろ」
と貴弘が言ったあとで、また信也が言う。
「俺は巨乳美女はあまり好きじゃない」
……話が繋がってませんよ、信也さん、と思ったが、みんな眠気で思考が飛び飛びになっているのだろう。
「チェック終わったか」
と貴弘に言われ、のどかは、おまけにつけられたような片隅の円グラフを見ながら、はあ、と言う。
「この新商品の96%の人が満足した、ほぼ満足した、なのに、残り4%の人はなにを思って満足しなかったんですね……?」
「……こういうめんどくさい奴が居るからな。
アンケートにあった満足しなかった細かい理由をどっかに書いとけっ」
と貴弘が指示を出している。
いかん、思ったままを言って、仕事を増やしてしまったと思いながら、
「手伝います~」
とのどかも立ち上がる。
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