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スークと砂漠に行きました
異国に迷い込みたい
しおりを挟む「……まさか、異国の町じゃなくて、ホテルで迷子になるとは」
真珠は桔平の予想通り、ホテルの中で迷っていた。
あのあと、また、佳苗から、
「あんた、もしかして、ドバイにいる?」
と入ってきた。
「はい。
佳苗さんたちにお土産も買いましたよ~。
またよさそうな写真でも撮れたら送りますね」
と返事をしたので、この素敵な夜の砂漠ホテルの写真を撮っておこうと思って出てきたのだ。
これだけのホテルだ。
朝見ても昼見ても素晴らしい眺めなのだろうが。
ライトアップされた夜の景色はまた別格だ。
ランプや雰囲気あるライトに照らし出された異国の建物の中は、物語の世界に迷い込んだようで美しい。
ちなみに、真珠が逃げてはいけないと佳苗たちは中峰がドバイに向かおうとしていることは伏せていたので、真珠は知らないままだった。
スマホを手に写真を撮って歩いているうちに、真珠は何処から来たのかわからなくなっていた。
フロアマップとか何処だろう?
スタッフの人見つけて、部屋番号言って、連れてってもらおうかな。
言葉もいまいちわからない遠い国で迷子になった真珠は心細くなっていた。
仕事に疲れたら異国に迷い込みたいとか思ったけど。
これなら、疲れて部屋で倒れて寝てる方がマシかもっ、と思ったとき、
「真珠」
と滑舌がよく、よく響く桔平の声がした。
「なにやってるんだ。
部屋は向こうの棟だぞ」
全然知らない場所でいきなり知っている顔に出会った真珠は、嬉しくなって桔平に走り寄る。
「有坂さんっ」
迷子の仔犬がようやく飼い主を見つけたみたいに飛びつきそうになるのをぐっと堪えた。
小走りで来たくせに、桔平の前まで来たら立ち止まる真珠に桔平が不満げに言ってくる。
「……抱きつかないのか」
「いや、恥ずかしいではないですか……」
「いいじゃないか、夫婦なんだから」
「わ、我々は仮の夫婦ですので……」
「仮じゃなくなろうと、さっき言わなかったか」
い、嫌ですっ、と真珠は訴える。
「あなたみたいな人を好きになって、あとから、第一夫人とか第二夫人とか現れてきたら嫌ですから」
「……だから、なにドバイに洗脳されてんだ。
俺は日本人なんで、妻は一人だし。
ていうか、例え、他に妻を娶ったとしても、お前が第一夫人だろう」
なんで、後から来た奴に追い越される? と問われ、
いや、そこは自信のなさの表れですかね……と真珠は思っていた。
「そもそも、ドバイでも妻をたくさん抱えてる男なんて、今どき、そういないぞ。
ひとりの妻でさえ、こんなに苦労してるのに。
たくさん背負い込みたい物好きがそうそういると思うのか」
そもそも、一夫多妻制って、戦争未亡人を救済するための制度だからな、と真面目な話をされ、怒られてしまう。
「ほら、帰るぞ。
早く部屋に戻ろう。
……こういう国で、外でいちゃいちゃすると、警察にしょっぴかれたりするからな」
いや、中でもいちゃいちゃする予定はありませんけどね、と思いながらも。
真珠は警察ではなく、桔平に連行されていった。
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