ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました

菱沼あゆ

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スークと砂漠に行きました

過保護ですね

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 おいしく日本酒をいただいていた真珠の目の前で、桔平のスマホが着信を告げる。

「……私も出たので、有坂さんもどうぞ出てください」

 今、スマホを見るな、と言った手前、出られないでいる桔平に真珠はそう言った。

 そうか、すまない、とスマホを開けた桔平は首を傾げる。

「俺も日本からだ。
 なんでみんなこんな時間に起きてるんだろうな」

 佳苗も中峰も同じ呑み会に出ていたからなのだが。

 もちろん、桔平も真珠もそんなことは知らなかった。

「ほう。
 後輩がいよいよ、好きな女を追いかけて行くらしいぞ」

「ああ、好きな人がいきなり鳥羽に行ってしまったとかいう」

 桔平の後輩が中峰だとは知らず。

 中峰が自分を好きだともわかっていない真珠は、鳥羽って地名、最近よく聞くなあ、くらいに思っていた。

「なんかいろんなところに移動してたみたいなんだが、その女性。

 島に行ったのかと思ったら、鳥取砂丘に行っていて……。

 いや、結局、鳥取じゃなかったのか?」
と桔平は真剣にメールを読んでいる。

「わかりにくい文章だな。
 酔ってんのか?」

「それって、女性の方から、『今、島よ』
 『今、鳥取砂丘よ』とか送ってきてるんですか?」

「さあ、知らないが。
 『今、ドバイよ』らしいぞ」

「なんかそれ……
 次は『今、あなたの後ろにいるわ』になりそうですね」

 真珠はおかしなところで勘がよかった。

 中峰は今まさに、『今、あなたの後ろにいるわ』と真珠の背後に立つために、飛行機を予約しているところだった。

「いや~、いい星空ですねえ」

 メールのおかげで、桔平との間に漂っていた緊張感が薄れ、ホッとした真珠は呑気に酒を呑む。
 


 まあ、変に気まずくなるのも嫌だし。

 まだもうちょっと、ふわふわっとした関係でいるのもいいかな、と思い出した二人はまったく気づいてもいなかったが。

 中峰が真珠に告白するため、深夜便に乗って、ドバイに着くまで、あと一日とちょっとしかなかった。



「それでちょっといい雰囲気で呑んだんだ」

 ホテルの廊下を歩きながら、桔平は機嫌よく侑李からの電話に出ていた。

 へー、と言う気のない返事に、

 しまった。
 こいつ、真珠が好きなんだったな、と思い出し、

「いや、だが、……うん。
 なにも進展ないから」
と弁解のように言ったが。

「いや、なくてどうするんですか。
 いきなりそんなところまで真珠様のために行ったのに。

 私に変に気を使ってくれなくていいんですよ。

 ちゃっちゃとくっついちゃってください。
 あなたがた、もともとご夫婦なんですから」
と素っ気なく侑李は言う。

「いや、形ばかりの夫婦なんだが……」

 そう言いかけた桔平は足を止めた。

 ランプの灯りに照らし出された石造の白い廊下の先を見知った影が横切った気がしたのだ。

「今、真珠が……」

「は?」

「部屋から出るなと行っておいたのに」

「過保護ですね~」
と呆れたように言う侑李に、

「なに言ってんだ、真珠だぞ。
 こんな複雑な構造の広いホテル、迷子になるに決まってるだろっ」
と言うと、真珠とドバイ観光をした侑李も、

「ああまあ、確かに」
と言う。

 切るぞ、と言って、桔平は電話を切った。

 ここは、一島一リゾートのモルディブとは違う。

 真珠がひとりで、こんな宮殿みたいなホテルをうろうろしてたら、絶対、迷子になるに違いない、と桔平は真珠を探して歩き出した。


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