上 下
29 / 43
スークと砂漠に行きました

なにか訳ありそうな結婚

しおりを挟む
 

「あ、真珠から返事来た」

 えっ? とコタツで倒れて寝ていた中峰なかみねは起き上がり、佳苗の手にあるスマホを取った。

「あっ、こらっ」

「『鳴らないです』ってなにがですか?」

 真珠の大学の先輩で、以前、真珠と同じ会社で働いていた中峰は、今でも真珠を想っていた。

 それで、突然、夫がいると言って消えた真珠を追いかけていこうとしていたのだが。

 今、彼女が何処にいるのか、いまいちつかめないままだった。

 鳥羽から移動したことは確かなようなのだが……。

「この間、島にいるとか言ってたのに。
 今度は鳥取砂丘にいるみたいなんだけど」

 ほら、と佳苗は送られてきた夕日の写真を中峰に見せる。

 なるほど。
 ラクダと夕日と砂漠。

 鳥取砂丘のようだ、と中峰は頷いた。

 だが、
「鳥取砂丘ってそんなんだっけ?」
と佳苗の同期、吉田がスマホをとる。

「こんな角度で撮ったら、大抵、海が映るけどね、あそこ」

 呑んだくれてるわりに冷静な吉田が、

「他の写真も見せて」
と言う。

 はい、と佳苗が真珠が送ってきたレストランで撮った魚と、海中ヴィラの魚の写真を見せると、

「これ、どっちも日本の魚じゃないよね?」
と吉田は言う。

「えっ? あの子、鳥羽から何処行ったのよ」

「……花木さん、鳥羽って言ったっけ?」

「社食のおばちゃんたちもあの子は鳥羽に旅立った。
 丁寧に鳥羽からもお詫びのメールをくれたって言ってたよ」

「……これ、アラビアの魚みたいなんだけど。
 もしかして……鳥羽じゃなくて、ドバイじゃないの?」

 ドバイ!?
と二人は叫び、他の寝ていたメンツを起こしそうになり、声を抑える。

「なんで、ドバイまで行ってんのよ。

 あっ、そうか。
 ドバイってあちこち建築中だし、外国人労働者もたくさん雇ってくれるらしいし。

 それで出稼ぎに行ってるのかしら、旦那」

「それなんだけど、誰が出稼ぎに行ってるって言ったの……?」
と吉田に言われ、佳苗は、

「え? 社食のおばちゃん」
と答えたあとで、

「そういえば、あの子、社食のおばちゃんたちにも花木って呼ばれてたのよね。
 前の会社も花木の名前を使ってたから、それでお願いしますって言われたって、おばちゃんたち言ってたけど。

 社食に前の仕事のキャリア引き継ぐわけでもないのに、なんでずっと旧姓使ってたのかしらね?」
と言う。

「……ドバイですか。
 実は僕、高校のときの先輩がドバイにホテル建ててて」

 よく相談に乗ってくれるいい先輩なんです。
 すごく格好良くて尊敬できる」

 先輩は今でも僕の憧れなんですと中峰は言った。

「僕、先輩頼ってドバイに行ってみますっ」

 すごいっ!
 男だ、中峰っ、と他のみんなが起きないよう、佳苗たちは小さく拍手する。

「その先輩、ホテル建ててるのなら、真珠の旦那、そこで働いてるかもしれないわね」

「そうですね、訊いてみます。
 ご主人の名前、なんて言うんでしょうね?」

「苗字だけなら、社食の人たちが知ってるかもしれないわ。
 あんたの会社の上司も知ってるかもだけど。

 真珠はあそこ辞めてるし、訊きにくいわよね」

 わかったら教えてあげるわ、と佳苗に言われ、ありがとうございますっ、と中峰は頭を下げた。

「旦那さんがいたと聞いた時点で諦めるべきなのかもしれませんが。
 なにか訳ありそうな結婚なんですよね。

 ……諦めきれないなにかがあります」
と呟く恋する男、中峰の勘は当たっていた。

 結婚式をした時点では、真珠たちの結婚は確かに偽装結婚だったからだ。

「どんな訳ありなんだろうね」
と言う吉田に、佳苗が、

「そういえば、真珠って、もともとはお嬢様だったのよね。
 一度、お父さんの会社が傾いて、今はなんとか持ちこたえてるみたいなんだけど」
と言うと、吉田が、

「じゃあ、その辺に花木さんの謎の結婚の理由があるかもしれないよね」
と言う。

 恋していない男、吉田の勘も当たっていた。

「じゃあ、僕、会社休んで、花木に会いに行ってみますっ」

「偉いぞ、中峰っ」

「おばちゃんたちから真珠の本名訊き出せたら、すぐに連絡するね」

「はいっ、ありがとうございますっ」

「ところで、ドバイってどうやって行くの? ラクダ?」

「うーん。
 お金持ちが行くところだから、ヨット?」

 半分酔っている佳苗と吉田はそんなことを言い合い笑い出したので、中峰はひとりスマホで、ドバイ行きの飛行機を探し、予約した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

身代わりお見合い婚~溺愛社長と子作りミッション~

及川 桜
恋愛
親友に頼まれて身代わりでお見合いしたら…… なんと相手は自社の社長!? 末端平社員だったので社長にバレなかったけれど、 なぜか一夜を共に過ごすことに! いけないとは分かっているのに、どんどん社長に惹かれていって……

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

処理中です...