28 / 43
スークと砂漠に行きました
これはヤバイですよ
しおりを挟む「わかってたのに、なんで言わなかった」
「なんで、そのことを隠しているのか気になったからです。
あなたがなにを考えているのかさっぱりわからなくて」
「お前にここにいて欲しいからだとは思わなかったのか?」
「五年も離れていた、結婚式で一回しか会っていない人間にそんなこと思うとは思えませんが」
「その一回しか会っていない結婚式でお前に惚れたからだよ。
でも、なにも言えないまま五年が過ぎて。
もしや、これはこのまま歳をとっていくパターンか? とようやく気がついたんだ」
この人はあれかな……。
仕事では有能かもしれないけど。
そっちに全力注ぎすぎて、他のことはポンコツな人なんですかね……?
……これはヤバイですよ、と誰にともなく、真珠は思う。
完璧な男には惹かれないが。
一見、完璧そうなのに駄目なところがあるとか、ちょっとドキリとしてしまう。
真珠が黙っていると、桔平は言葉に困りながらも言ってきた。
「このまま俺と結婚してろ。
なんでも手に入るぞ。
……金で手に入れられるものなら」
「結構限定的ですね」
と真珠は言った。
お金があるからこそ、金で手に入れられないものの方が多いと知っているのだろう。
っていうか、この人、こういうこと言いたいんじゃないんだろうにな~。
駄目な人だな、やっぱり。
……これ以上こういうところは見せないで欲しいんだが、と思いながら、真珠は言う。
「私はお金はいりません。
私は古い日本家屋の家賃を払うお金と、日々、谷中で惣菜を買うお金と、たまに友だちと呑みに行くお金だけあればいいんです」
とドバイに来たとき思ったことを口に出して言ってみたが、桔平は、
「だけとか言いながら多いな。
っていうか、惣菜を買う金ってなんだ。
毎日惣菜買ってんのか。
作らないのか。
自力で生活するってそういうことか?」
と妄想より多くのツッコミを入れてきた。
桔平は指でテーブルを弾きながら言う。
「俺からショートメールが入ったとき、ほんとうは、めんどくさいこと言ってきやがったって思ったんだろう?」
「あなたからのメールを見たとき……」
真珠はあのときのことをリアルに思い出してみた。
「……誰からかな? と思いましたね。
見覚えのない番号だったので」
「夫の電話番号くらい登録しとけよっ」
俺は最初に教えてもらったときに、いそいそ登録してたのにっ、とキレられる。
「いや、だって、用事があるときは名乗ってかけてくるだろうと思ってましたし。
……かけてこないかな、とも思ってましたしね」
こんな行きずりで結婚したみたいな妻のことなど、とっくの昔に忘れていると思っていた。
そう思ったとき、スマホにメールが入っているのに気がついた。
真珠は思わず見ようとして、
「今、見るなよ」
と桔平に顔をしかめられる。
「ああ、すみません、つい。
あなたと会ってからは、そんなにスマホ気にしてなかったんですけど」
とうっかり言って、
「なんでだ?」
と問われてしまう。
いやいや、まあまあ、ちょっと……といつもの苦笑いで誤魔化しながら、真珠は結局、スマホを開けてみた。
桔平と二人きりで向かい合っているのがちょっと恥ずかしくなってきたからだ。
「あ、社食のパートしてたとき会った大学の先輩からでした」
メールは佳苗からだった。
デザートサファリで行っていた砂漠の方は携帯が通じなかったので、ホテルに来てから、あの夕日の沈む砂漠の写真を佳苗に送っていた。
うっかり時差も考えずに送ってしまい、しまった、と思っていたのだが。
佳苗は呑み会でもやっていたのか、すぐに返信が来たようだった。
『素敵ね!
その砂、鳴くの?』
「え? 鳴く……?」
「どうした?」
「いえ、砂漠の写真を送ったら、その砂は鳴くのかと訊かれまして」
桔平は少し考え、
「踏んでみろ」
と言う。
はあ、と真珠は立ち上がり、その場で、ぎゅっぎゅっと砂漠の砂を踏んでみた。
立ったまま、『鳴らないです』と送る。
「……なんだったんでしょうね」
と言いながら、真珠はスマホを置いた。
「……まあ呑め」
とグラスに酒を注がれる。
「これ、ドバイでは60万するとかいう日本の酒では」
「まあ、呑め」
二人だけの砂漠の夜か。
アラビアンナイトの世界だな……と思う真珠のメールを佳苗は二次会から流れてみんなが雪崩れ込んでいる友だちの家で受け取っていた。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
玖羽 望月
恋愛
親族に代々議員を輩出するような家に生まれ育った鷹柳実乃莉は、意に沿わぬお見合いをさせられる。
なんとか相手から断ってもらおうとイメージチェンジをし待ち合わせのレストランに向かった。
そこで案内された席にいたのは皆上龍だった。
が、それがすでに間違いの始まりだった。
鷹柳 実乃莉【たかやなぎ みのり】22才
何事も控えめにと育てられてきたお嬢様。
皆上 龍【みなかみ りょう】 33才
自分で一から始めた会社の社長。
作中に登場する職業や内容はまったくの想像です。実際とはかけ離れているかと思います。ご了承ください。
初出はエブリスタにて。
2023.4.24〜2023.8.9
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
クリスマスに咲くバラ
篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚
日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる