ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました

菱沼あゆ

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スークと砂漠に行きました

これはヤバイですよ

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「わかってたのに、なんで言わなかった」

「なんで、そのことを隠しているのか気になったからです。
 あなたがなにを考えているのかさっぱりわからなくて」

「お前にここにいて欲しいからだとは思わなかったのか?」

「五年も離れていた、結婚式で一回しか会っていない人間にそんなこと思うとは思えませんが」

「その一回しか会っていない結婚式でお前に惚れたからだよ。

 でも、なにも言えないまま五年が過ぎて。

 もしや、これはこのまま歳をとっていくパターンか? とようやく気がついたんだ」

 この人はあれかな……。

 仕事では有能かもしれないけど。

 そっちに全力注ぎすぎて、他のことはポンコツな人なんですかね……?

 ……これはヤバイですよ、と誰にともなく、真珠は思う。

 完璧な男には惹かれないが。

 一見、完璧そうなのに駄目なところがあるとか、ちょっとドキリとしてしまう。

 真珠が黙っていると、桔平は言葉に困りながらも言ってきた。

「このまま俺と結婚してろ。
 なんでも手に入るぞ。

 ……金で手に入れられるものなら」

「結構限定的ですね」
と真珠は言った。

 お金があるからこそ、金で手に入れられないものの方が多いと知っているのだろう。

 っていうか、この人、こういうこと言いたいんじゃないんだろうにな~。

 駄目な人だな、やっぱり。

 ……これ以上こういうところは見せないで欲しいんだが、と思いながら、真珠は言う。

「私はお金はいりません。

 私は古い日本家屋の家賃を払うお金と、日々、谷中で惣菜を買うお金と、たまに友だちと呑みに行くお金だけあればいいんです」
とドバイに来たとき思ったことを口に出して言ってみたが、桔平は、

「だけとか言いながら多いな。
 っていうか、惣菜を買う金ってなんだ。

 毎日惣菜買ってんのか。
 作らないのか。

 自力で生活するってそういうことか?」
と妄想より多くのツッコミを入れてきた。

 桔平は指でテーブルを弾きながら言う。

「俺からショートメールが入ったとき、ほんとうは、めんどくさいこと言ってきやがったって思ったんだろう?」

「あなたからのメールを見たとき……」

 真珠はあのときのことをリアルに思い出してみた。

「……誰からかな? と思いましたね。
 見覚えのない番号だったので」

「夫の電話番号くらい登録しとけよっ」

 俺は最初に教えてもらったときに、いそいそ登録してたのにっ、とキレられる。

「いや、だって、用事があるときは名乗ってかけてくるだろうと思ってましたし。

 ……かけてこないかな、とも思ってましたしね」

 こんな行きずりで結婚したみたいな妻のことなど、とっくの昔に忘れていると思っていた。

 そう思ったとき、スマホにメールが入っているのに気がついた。

 真珠は思わず見ようとして、
「今、見るなよ」
と桔平に顔をしかめられる。

「ああ、すみません、つい。
 あなたと会ってからは、そんなにスマホ気にしてなかったんですけど」
とうっかり言って、

「なんでだ?」
と問われてしまう。

 いやいや、まあまあ、ちょっと……といつもの苦笑いで誤魔化しながら、真珠は結局、スマホを開けてみた。

 桔平と二人きりで向かい合っているのがちょっと恥ずかしくなってきたからだ。

「あ、社食のパートしてたとき会った大学の先輩からでした」

 メールは佳苗からだった。

 デザートサファリで行っていた砂漠の方は携帯が通じなかったので、ホテルに来てから、あの夕日の沈む砂漠の写真を佳苗に送っていた。

 うっかり時差も考えずに送ってしまい、しまった、と思っていたのだが。

 佳苗は呑み会でもやっていたのか、すぐに返信が来たようだった。

『素敵ね!
 その砂、鳴くの?』

「え? 鳴く……?」

「どうした?」

「いえ、砂漠の写真を送ったら、その砂は鳴くのかと訊かれまして」

 桔平は少し考え、
「踏んでみろ」
と言う。

 はあ、と真珠は立ち上がり、その場で、ぎゅっぎゅっと砂漠の砂を踏んでみた。

 立ったまま、『鳴らないです』と送る。

「……なんだったんでしょうね」
と言いながら、真珠はスマホを置いた。

「……まあ呑め」
とグラスに酒を注がれる。

「これ、ドバイでは60万するとかいう日本の酒では」

「まあ、呑め」

 二人だけの砂漠の夜か。

 アラビアンナイトの世界だな……と思う真珠のメールを佳苗は二次会から流れてみんなが雪崩れ込んでいる友だちの家で受け取っていた。


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