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月末までに、お前を払ってもらおう

とりあえず、退いてください

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 万能なあなたにも難しいこととかあるんですか、と真珠が思っていると、桔平は、

「どういう男がお前の好みのタイプなんだ?」
と訊いてくる。

「えーと、尊敬できる人ですかね?」

 ますます難しいな、と桔平は言ったが。

 実はそこはそうでもない。

 真珠はある理由によって、桔平を尊敬していた。

 だが、今、それをここで口に出すのは、ちょっと嫌だった。

「そうか。
 俺を尊敬しているのか。

 じゃあ、俺のこと好きなんだな。

 俺がお前の素敵な旦那様か。

 わかった、襲おう」
という危険な話の展開を迎えそうな気がしたからだ。

 ……この人何故だかわからないが、昨日から、私を手籠てごめにしようとしているからな。

 そろそろ子どもを作れと周囲から言われているのだろうか、と真珠は身構える。

 でも、有坂さんをいいと思う人は、きっと他にもいっぱいいるから。

 そのうち、愛人がたくさん押しかけてきて。

 私なんかは押しのけられ、第三夫人とかになってしまうに違いない。

 そう真珠は危ぶんでいた。

 こんな豪華なヴィラに泊まらなくていいし、プライベートジェットにも乗らなくていい。

 あの谷中の、夕焼けどきにはちょっと切なくなるような風景の中。

 縁側から庭先の朝顔を二人でそっと眺めて微笑むような。

 そんな人生を送りたい。

 そう言えば、真逆のキラキラした場所にいるこの人は諦めるだろう。

 そう思い、桔平に言ってみた。

「それ、冬はどうすんだ」
「え?」

「冬は朝顔ないだろう」

「……物の例えですよ。
 っていうか、うちの庭の朝顔、今も咲いてますよ。

 そういえば、朝顔というわりには、夕方も咲いてるんですけどね」

「それ、ほんとうに朝顔なのか……?
 さすがお前んちの朝顔だな」
となんだかわからないが納得される。

「ともかく、俺はこのままお前と夫婦でいることにしたから、襲われろ」

 いや、勘弁してください、と真珠は肩にのった手を払う。

「魚が見てます」

「心配するな、サメも見ている」
「余計問題です」

 そのまま押し倒されそうになり、桔平の肩を押し返しながら、真珠は叫んだ。

「日本のお巡りさんに通報しますっ」

 結局、ドバイの110番がわからなかったからだ。

「ここから110番して通じるかっ」

「近所の交番に直接電話しますっ」

 この間、落とし物したとき聞いたんですっ、と真珠は言ったが、

「忙しい日本のお巡りさんの手をわずらわせるなっ」
と叱られる。

「『はい、どうされました?』
 『私、今、ドバイにいるんですけど~』とか言うつもりかっ」

 ……あの、後半のゆる~いしゃべりは、もしや、私のモノマネですか……?

 そう思う真珠の上に乗ったまま、桔平は真面目な顔で言ってくる。

「だが、まあそうだな。
 結婚式で二、三時間一緒にいて、次がこのドバイ旅行だ」

 お前のせいで、うっかりモルディブまで行ってしまったが……、と付け加えながら桔平は言う。

「ちょっとお互いの話でもしてわかり合おうか」

 わかり合うのはいいのですが。
 とりあえず、私の上から退いてください。

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