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月末までに、お前を払ってもらおう

足がすくみますっ

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「急に休みをとるとか無理だ」

 無理だが、……時間は作ろう、と桔平は言った。

 だから、せめて夜だけでもと思っていたのだが。

「明日なら、日中三時間くらい休めないこともないですよ」
とスケジュールを管理している侑李が教えてくれる。

「ちょっとごゆっくりされては」
と言われたが、三時間か、そんなにゆっくりはできないなと思う。

「……何処か行くか」
と真珠を見下ろし、訊いてみた。

 真珠は、
「あっ、じゃあ、みんなにお土産を買いに行きたいです」
と言う。

「土産か。
 まだオールドドバイには行ってないんだろう。
 スークに行くか」

 はいっ、と真珠は笑った。

 披露宴でも見たいい笑顔だ。

「花嫁さん食べちゃ駄目って言われたんですけど。
 このフグは食べてもいいですかねっ」
と訊いてきたときだ。

 神妙な顔をしながら、隙を縫って食べてたな……と思い出し、笑いそうになる。

「あ、でも、昼間、職場を離れて、ウロウロしてて大丈夫ですか?
 いきなり、私を会わせたいという方から連絡があったりしませんか?」

「大丈夫だろう。
 まだ予定が合わなくてな」
と素っ気なく言うと、真珠はちょっと小首を傾げながら、

「……そうですか」
と言っていた。



 真珠たちが食事を終え、エレベーターで戻る途中、侑李が桔平に訊いていた。

「今日はホテルの方にお二人で戻られますか?」

 桔平が泊まっているホテルに二人で帰るのかと訊いているようだ。

「いや。
 ああ、帰りの車は頼んであるから、お前、乗って帰れ」

「は?
 ああ、ここに二人でお泊まりになられるんですか」

 せっかくの七つ星ホテルですもんね、と侑李は言ったが、

「いや、ヘリで帰る」
と桔平は言う。

 何故、ヘリで……と思う真珠を見下ろし、桔平が言った。

「友だちに水上ヴィラを借りたんだ。
 あそこに泊まる。

 来い、真珠」

 真珠はそのまま桔平に連れられ、ヘリポートに向かった。



 あ、足がすくむんだが……。

 このホテルのヘリポートは、地上200メートル以上のところに空中に飛び出すように存在していた。

「なんかこれ、あれですね」

 真珠は足がガクガクしながら、桔平に手を引かれ、丸い緑のヘリポートに向かう階段を上がる。

「例えば、この高層ホテルがウェイターなら」

「……例えの最初から、意味がわからないが」

 そう桔平に言われながらも、遥か下にある地上から気を逸らすため、真珠は続けて言った。

「このヘリポートはウェイターさんが手に抱えている皿というか」

 いや、ほんとそんな感じで空中に突き出しているのだ。

 ヘリポートに殺されるっ、と真珠は思った。

 ……いや、ヘリポートは殺さないか。

 今、ちょっと背中を突かれただけで、誰かに殺されるっ。

 この場合、殺せるのは、自分の手を握っている桔平、ということになるのだろうが。

 それにしても、恐ろしいことに、この空中に突き出している丸いヘリポートはテニスコートにもなるようだった。

 それどころか、ここでゴルフをやったり、結婚式をやったり。

 F1カーが駆け回ったりもするらしい。

 いや、なんのためにですかっ、と他人事ひとごとながら、真珠は震える。

 ここに立ってるだけで、歯医者にいるときくらい、いろんな妄想が駆け巡って怖いんですけどっ。

 今にも強い風が吹きつけ、あ~れ~、と200メートル下に吹き飛ばされていってしまいそうで、真珠は思わず、その場で踏ん張った。

「いいから早く乗れ」
と桔平に背を押される。

 やはり、る気ですかっ、と振り返ってしまった。

 いや、押されたのはヘリに向かってだったのだが。


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