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月末までに、お前を払ってもらおう
……お前、なにしにここに来た?
しおりを挟むともにその家族を見送りながら、桔平は笑顔のまま真珠に訊いた。
「お前、英語は結構堪能なんだな。
……アラビア語はわからないのか?」
ちょっと気になることがあったのだ。
「あー、絵本程度ならわかりますよ。
子どもの頃、こんな感じの」
と今持っている大きな絵本を見せ、
「表紙が綺麗なアラビア語のアラビアンナイトの本を買ってもらったことがあるんで。
その程度ならわかります」
と言う。
「ほう、なにがしゃべれるんだ」
「『今宵、お前に夜伽を命じよう』
……とかですかね?」
「……なんの役にも立ちそうにないな」
と言うと、後ろで侑李が笑っていた。
席に戻り、個性的に飾られたチョコのスイーツを食べながら、桔平は訊いてみる。
「明日の予定はもう決まってるのか?」
いや~、と真珠は丸く盛られたアイスの上の焼き菓子を食べながら、少し悩んでいる風に言う。
「特に決まってないですけど。
ああ、そういえば、カイロに行ってみたいですね」
何故、カイロ!?
どうしてお前はドバイの外にばかり行きたがるっ、と思ったのが顔に出たようで、真珠は、
「いや~、せっかくここまで来たので、ちょっと足を伸ばして、スフィンクスとか見たいかなって」
前の仕事のとき貯めたお金が少しはありますが。
なかなかこんなところまでは来られないので、周辺国を回りたいかなと思って、と真珠は言う。
「……お前、なにしにここに来たんだ」
「それなんですけど。
肝心な用事はいつあるんですか?」
と言われ、桔平は、ぐっと詰まった。
「大丈夫ですよ。
チラと観光したら帰ってきますよ。
OL時代も、ちょっと甘いもの食べに京都とか行ったりしてましたしね」
「……それ、国を跨いではいないよな」
そう言われた真珠は言い訳のように、
「跨いでましたよ。
えーと……丹波国とか、山城国とか……?」
と言い出す。
「お前の頭の中の日本地図は江戸辺りで止まってんのか」
そう言い終わらないうちに、真珠が言った。
「でも確かに、いきなりお呼びがかかっちゃいけないですよね。
こんな時間から相手の方とお約束することはないでしょうから。
今夜のうちに飛び立って、夜のカイロを見て昼に帰ってきましょうか?」
横で侑李が笑いをこらえている。
それを横目に睨んでいると、真珠が手を打ち、言ってきた。
「そういえば、昔はカイロは眠らない街とか言われてましたよね。
遺跡や石造りの建造物がライトアップされてるのとか綺麗ですよね~」
見てみたいです、と言う真珠は行動が早いので、即、スマホでチケットを押さえ、カイロに向けて飛び立ちそうだった。
桔平は思わず叫ぶ。
「昨日はモルディヴ、今日はカイロ!
明日は俺は、何処に帰ればいいんだっ!」
「いや、別に私のところに帰ってこなくてもいいのでは……」
秘書ではなく、幼なじみに戻って笑い出す侑李に睨みを利かせながら、低い声で真珠に言った。
「……名ばかりの妻にわざわざ来てもらったんだ。
一応、もてなさないといけないだろうが」
侑李が笑ったまま提案してくる。
「ちょっとおやすみされて、お二人でお出かけになられてはどうですか?」
いつも働きすぎですから、社長、と言われる。
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