12 / 43
月末までに、お前を払ってもらおう
無防備になってもいいんじゃないですか?
しおりを挟む桔平は、寝るか、そこで、といつの間にか寝ている真珠を見下ろした。
危険なやつだ。
やはり、侑李について来させなくてよかったと思った。
男が側にいるのに、こんな無防備に寝るなんて、と侑李に言ったら、
「あなた、夫なんで、別に無防備になってもいいんじゃないですかね?」
と言ってきそうなことを思う。
寝返りを打った真珠が、ぎゅっと自分の腕に、ひっついてきた。
桔平は、そんな真珠を見下ろし思う。
……こいつはおそらく。
俺の体温を求めて来てるな。
桔平は無駄に勘がよかった。
そこは、こいつ、俺に気があるんじゃ、と勘違いした方が進展したのかもしれないが。
残念ながら、桔平はこんなときも冷静だった。
まあいい。
人は物理的に温かい人を心も温かいと判断し、警戒心を解くというからな。
それにしても、ちょっと冷えてきたようだ、と桔平は冴え冴えとした月を映す海を見る。
吹き付ける海風がひんやりしはじめていた。
風邪ひきそうだな、と思った桔平は真珠を抱き上げ、ベッドに連れていった。
キングサイズのベッドは美しい白いモスキートネットで覆われている。
真珠を寝かせ、ふたたびネットを下ろすと、その向こうで眠る真珠は昔、絵本で見たお姫様のように見えた。
……まあ、起きて、阿呆な話をはじめなければなんだが、と思いながら、桔平は別のベッドルームに行き、ひとり眠った。
阿呆な妻の話を聞いたせいか、夜、ヴィラから外を見ていると、その辺の葉っぱの陰から、のそっと前足を出し、ライオンが歩いてくる夢を見た。
「真珠っ」
と妻を逃がそうと振り返ると、モスキートネットの向こうの真珠はベッドの上で小さなライオンと遊んでいた。
朝、ふかふかのベッドで真珠は目を覚ました。
潮の香りと枕許に置かれたキャンドルの甘いバニラの香り。
……そういえば、私、有坂さんとハンモックで寝なかったっけ?
起きて窓から覗いてみたが、水上ハンモックには桔平の姿もなかった。
有坂さんが運んでくれたのかな、と思いながら、真珠は桔平を探してみる。
桔平は奥のベッドルームで眠っていた。
カーテンも窓も開いたままで、高くなった日が容赦無く差し込んでいるが。
桔平はぐっすり眠っていた。
寝ていても乱れなく整っている顔を眺めながら真珠は思う。
お疲れのようなのに。
なんでわざわざここまで来たんだろうな~。
私を呼んだ手前、相手してやらないといけないと思ってくれているのかな?
でも、そろそろ起こさないと仕事だよね。
仕事、何時からなんだろ?
モルディブの方がドバイより一時間早いけど、それにしても、そろそろ……と思ったとき、パチリと桔平が目を覚ました。
一拍置いてスマホの目覚ましが鳴る。
むくりと起き上がった桔平はそれを止めながら、
「鳴る直前にいつも目が覚めるんだ」
と言う。
「じゃあ、目覚ましかけなくてもいいんじゃないですか?」
「いや、たぶん、目覚ましをかけることで暗示になってるんじゃないか? おや」
と桔平はスマホを覗き込んだ。
「後輩が彼女を追っていこうと思ったら、彼女の方が移動したらしい。
何処に移動したのか、知り合いに訊いているところだそうだ」
「そうなんですか」
「頑張れと送っておこう」
と言いながら、メッセージを打っている。
意外と後輩思いだな、と思ったとき、真珠は自分のスマホにもメッセージが入っているのに気がついた。
「あんた飛行機に乗ったって言ってたけど、今、何処?」
佳苗だった。
そのとき、
「真珠、支度しろ。
朝食が来たぞ」
と桔平が窓の外を見ながら言ってきた。
なるほど。
指定していた朝食の時間になったらしく、スタッフの人たちが大きな籠やトロピカルなドリンクなどを運んでくるのが見えた。
「行くぞ」
あっ、はいっ、と急いだ真珠は、
「今、島です」
とだけ打って返した。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
身代わりお見合い婚~溺愛社長と子作りミッション~
及川 桜
恋愛
親友に頼まれて身代わりでお見合いしたら……
なんと相手は自社の社長!?
末端平社員だったので社長にバレなかったけれど、
なぜか一夜を共に過ごすことに!
いけないとは分かっているのに、どんどん社長に惹かれていって……
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。
でも今、確かに思ってる。
―――この愛は、重い。
------------------------------------------
羽柴健人(30)
羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問
座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』
好き:柊みゆ
嫌い:褒められること
×
柊 みゆ(28)
弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部
座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』
好き:走ること
苦手:羽柴健人
------------------------------------------
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる