ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました

菱沼あゆ

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月末までに、お前を払ってもらおう

戸籍上だけでも妻なので、とりあえず

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 真珠はガラス張りの浴室で風呂に入っていた。

 さっきいたのとは反対側の海が目の前にある。

 まあ、この辺りに他に人いないからいいんだが、丸見えだな、と思いながら。

 夜光虫の波が見えたら綺麗だろうな~。

 っていうか、今日、このまま寝るの不安だな。

 あの人、別に私のことなんて好きじゃないと思うけど。

 戸籍上でも妻だから、とりあえず、とかいうよくわからない理由により、襲いかかられそうで怖い。

 

 風呂を出た真珠は広いヴィラの中、桔平が何処にいるのかつかめないまま、外に出る。

 海に向かって張り出しているデッキから、カラフルなクッションの置かれた小さな部屋くらいの大きさの水上ハンモックに乗る。

 襲われないよう、ここで寝ようとしたのだ。

 だが、持ってきたブランケットをお腹にかけたとき、何処からか視線を感じた。

 ふと見ると、ハンモックの真上にある窓からグラスを手にした桔平がこちらを見下ろしている。

「そこにいても充分襲えるぞ」

 ひっ。

「襲いたい気分のときは、何処からどうやっても襲えるぞ。
 っていうか、そこで寝たら、まず、虫がお前を襲うぞ」

 虫っ、と起き上がった真珠は慌てて海に落ちかける。

 だが、窓から下りてきた桔平が抱きとめた。

「まあ、ここ、あんまり虫いないけどな」

 うん、いい風だ、と桔平は飛び降りたせいで揺れるハンモックから夜の海を見て言う。

「今日はここで二人で寝るか」

 揺れても桔平にはあまり寄りかかるまいと真珠は頑張っていたが。

 お腹に手を回されて抱きとめられているので。

 バランスを取ろうと前方に両手を突っ張って振る真珠は、まるで親の腕から身を乗り出して、あわあわ言っている子どものようだった。

 そんな真珠を見て笑った桔平は真珠を抱いたままハンモックに転がる。

 ハンモックは二人で寝ても十分な広さがあったが。

 抱きしめられたまま寝る形になり、真珠は心の中で、ひーっ、と叫ぶ。

 ちゃぷちゃぷとハンモックの下で水音がしていた。

 ひんやりとした水の気配も伝わってくるが、ちょうど心地いい感じだった。

「まあ固まってないで空を見てみろ。
 綺麗だぞ」

 桔平にそう言われ、ずっと身構えていた真珠はようやくあおむけになってみた。

 降るような星空とはこのことか思うような夜空が見える。

 デッキに点々と置いてある柔らかな光のライトも視界の端に入っていた。

 そのせいで、そこまでがひとつながりの星空みたいに思える。

 まるで、地上を覆う星空のドームの中にいるようだった。

 そんな幻想的な光景だったので、ぼんやり夜空を見上げていると、横に寝ている桔平が真珠の腰を抱いたまま囁いてくる。

「大丈夫だ。
 からかっただけだ。

 特に不自由はしてないから、襲わない」

 いや、それはそれでどうなんですかね?

 やはり、第一、第二ラジオ体操が……、

 違った。

 第一、第二夫人がいるのでしょうか。

 そんなことを考えながら、真珠は波の音と木々が遠くで揺れる音を聞いていた。

 桔平はそれ以上しゃべらなかったし、なにもして来なかったので。

 緊張感が薄れたせいか、横にいる桔平の物理的温かさだけを感じるようになり。

 やがて、真珠の中で、彼はただの熱源となった。

 あったかい……。

 横にコタツかホッカイロがあるみたいだ……と思いながら、真珠は、うとうととする。


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