ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました

菱沼あゆ

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月末までに、お前を払ってもらおう

この人とラブラブにはなれません

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 ドバイ直行便のファーストクラスは半個室なので、誰とも接触もなく、快適だった。

 誰とも、にはもちろん、桔平も含まれる。

 ウエルカムドリンクのドンペリのあとには、アラビックコーヒーとデーツが運ばれてきた。

 よくドバイ土産にもなるデーツは日本で言うナツメヤシだ。

 ねっとりとした甘いドライフルーツで、天然のキャンディとも呼ばれている。

 クレオパトラも好きだったらしいから、美容にいいのかな、と思いながら食べた。

 深夜便なので、機内食は軽めなものを頼んだが。

 シートごとにミニバーがつき、お菓子も大量に備え付けられているので、ついつい、それを食べたり、炭酸水を飲んだりしながらゲームをやってしまう。

 シャワーを予約していた時間になったので、真珠はようやく半個室の席から出てみた。

 搭乗時間まで暇だったのだから、ラウンジのシャワー室を使ってもよかったのだが。

 一度、飛行機の中でシャワーを浴びてみたかったので、こちらにしてみた。

 シャワールームは二十五分貸し切れるが、お湯が出せるのは五分だけなので、真珠は急いでシャワーを浴びた。

 席に戻るとき、チラ、と桔平の方を見てみたが、彼の席の扉もぴたりと閉じられていた。

 なにやら拒絶されているように感じてしまう。

 まあ、上部は空いているので、長身な真珠だと、ちょっとは中が見れてしまうのだが。

 桔平は映画かなにかを見ているようだった。

 自分の席に戻ると、お茶とフルーツが用意してあったので、それを食べた。

 それで充分満足だったのだが、用意してあるパジャマに着替える前に、バーラウンジを覗いてみた。

 バーラウンジはビジネスのエリアにあるので、侑李もいた。

 いつも愛想のいい侑李は、
「サンドイッチ、おいしかったですよ」
と教えてくれて去っていく。

 じゃあ、サンドイッチとお酒でも軽くもらおうかなと思ったそこに、桔平がやってきた。

 うわ、ここで出会うとはっ、と真珠は身構えてしまう。

 日本人スタッフがバーテンダーをしていたので、二人で彼と少し話しながら、ワインを用意してもらった。

 そのまま逃げ去りたかったのだが、桔平に、
「まあ、座れ」
と言われる。

 仕方なく、ちょっと緊張しながら、空いていたロングシートに腰掛け、桔平と話した。

「急だったから、完全個室の新型機がとれなくて悪かったな」

「いえいえ。
 充分ゆっくりできてます」

「そうか。
 まあ、こっちの機体の方がシャワーも機内ラウンジもあるしな」
と言ったあとで桔平は一度沈黙した。

 間が持てなくて、ワインを呑んでいると、
「……なにしてたんだ?」
と訊いてくる。

「え?」
「暇だろ、フライト長いから」

「ああ、えっと、ゲームしたり、アラビア語の学習してました」

 機内でいろんな国の言葉を学べるようになってるんですね~と真珠は笑ったが、
「いや、今か……」
と言われる。

 だって、この旅、いきなりだったではないですか……と思ったとき、ポラロイドカメラで他の旅行客の記念写真を撮っていたCAさんが真珠たちにも声をかけてきた。

「せっかくだから撮ってもらおう。
 お前が妻だという証拠になるしな」

 普通、そこは記念になるしな、ですよ……と思いながらも、二人で撮ってもらう。

 CAさんが、
「お二人でグラスをカチンと合わせてるところとかどうですか?」
とアドバイスしてくれたので、そのようなポーズを撮ってみた。

「もっと笑ってください」
と言われ、笑おうとしたとき、真珠が自分の膝に置いていた手の上に桔平が手を重ねてきた。

 やめてください。
 顔が引きつります……と思いながらも、真珠は、なんとか笑顔を浮かべた。

 出来上がった写真を桔平は重要書類でも確認するような表情で見て頷く。

「よし、これで完璧だな。
 ちゃんとした夫婦に見える」

 ……この人とは永遠にラブラブな雰囲気など醸し出せそうにないな。

 そう真珠は思っていた。


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