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あやしい人に会いました
いや、単なる妄想ですけどね
しおりを挟む二人で参拝したあと、境内の端に行き、眼下に広がる津和野の町を見下ろした。
「いいな、なんだか。
屋根が低くて、山間の町って感じだな」
と赤い手すりに手をかけ、桂は笑う。
後ろ振り返ったら、人がごちゃっと居ますけどね、と境内の騒がしさを背中で感じながら、夏巳は思っていた。
「これで、SLが通ったら言うことないんだがな」
と桂が呟く。
「あー、今、走ってないですかね~」
と夏巳は少し身を乗り出して、町を見下ろした。
すると、背後から伸びた片腕が夏巳の身体を抱き、少し後ろに下がらせる。
桂の胸にぶつかった夏巳は間近にその顔を見上げてしまった。
「あんまり身を乗り出すと危ないぞ」
と言って桂は手を離す。
「よしっ。
そろそろ行くか」
桂はさっさと歩き出したが、夏巳は手すりの前でフリーズしていた。
この人、タラシなんじゃないですかっ?
実はタラシなんじゃないですかっ?
だが、桂はなにも気にしていないようで、足を止め、
「そうだ。
おみくじ買ってくか?」
と呑気なことを言いながら、社務所を振り返っている。
先生、今のお父さんが見てたら、斬り殺されてますよっ。
っていうか、その前に私が祥華たちに正面から袈裟懸けに斬り殺されますけどっ、と思ったとき、その人が見えた。
如何にもこの古い町の住人らしい和服姿の若い男の人だ。
桂とはまた違った、繊細で和風な顔立ちをしている。
……なんだろう。
津和野のすごい家の次期当主で、怪しい美貌の婚約者や彼に思いを寄せる女中さんとか居そうな感じだ、
と夏巳が、目を閉じ、拝殿の前で祈っているその美しい横顔を眺めていると、後ろから桂が言ってきた。
「おっ。
津和野のすごい家の次期当主で、怪しい美貌の婚約者や思いを寄せる女中さんとか居そうな感じの男が居るな」
……どうしよう、先生と発想が似てきてしまった。
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大変な事件が進行しているのは決定事項か……と思ったとき、その男性が振り向き、こちらを見た。
微笑みかけてくる。
「知り合いか?」
「そんなわけないでしょう」
と言い合っているうちにその色白で和服姿の男がこちらに向かい、やってきた。
「こんにちは、観光ですか?」
と男に問われる。
「観光です」
と桂が答えた。
男が微笑む。
「そうですか。
私もです」
……ん?
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