上 下
8 / 13
先生、事件ですっ!

情緒あふれる(?)津和野に着きました

しおりを挟む


「宇宙人に運ばれてきた人たちがたくさん居ますよ……」

 やはりみんな違う道を通ってやってきたのか、ようやく到着した津和野は人と車でごった返してた。

「津和野の最大の問題は駐車場がほとんどないことなんですよね~」
と夏巳は呟く。

 しかも、萩と一緒で昔ながらの城下町の道なので、狭くて走りにくいのだ。

 とりあえず、ナビ様に導かれ、太鼓谷稲荷の駐車場へと向かう。

 急で狭い道を上がると、またみっしりと車が居る。

「ツアー客も多いな。
 何処も情緒がないじゃないか」
と言う桂に、

「いやあ、これが五時過ぎると一気に人が居なくなって、ものすごく情緒あふれるんですよ」
と夏巳は言った。

 まあ、情緒あふれるというか、うら寂れた感じになるというか。

 でも、先生が求めている雰囲気に近いのは、その五時過ぎの津和野の町だろうな、と夏巳は思う。

 とりあえず、なんとか空いているスペースに車をとめる。

 赤い鳥居が連なっている千本鳥居が美しいのだが、残念ながら反対側だ。

「下にとめて千本鳥居をくぐって歩いてくればよかったですね」
と夏巳は笑った。

 雰囲気ある場所をぶっ飛ばして上の駐車場まで来てしまったので、自分たちこそがUFOで運ばれてきた感じだ、と夏巳は思う。

 手水舎で手を洗ったあと、拝殿に向かい、階段を上がった。

「鳥居を潜ると聖域って感じがしますよね」
と夏巳は振り返り笑ったが、ツアーバスから降りてくる人々を凝視している桂の頭の中は二時間サスペンスに支配されているように見えて、

 鳥居を潜っても、この人の心はなにも清らかにならないようだなと思っていた。

 でもまあ、このまま、なにも事件が起こらず、萩の事務所がなくなって先生が居なくなっちゃったら、やっぱり、寂しい気がするし。

 ……帰ったら、祥華さちかにサンタを逃してもらおうかな。

 いや、もしかしたら、まだクルーザー止まってるかも、と思ったとき、桂のスマホが鳴った。

「もしもし?」
と桂が出ると、平川だった。

「先生っ、私、あれから考えたんですけど。
 妻はもしかして、水曜日に私を殺そうとしてるんじゃないですかねっ?

 私から自由になれると思って、ハートとかっ」

 『死、ハート』とか、病んでますよね、奥さん……。

「平川さん、それはですね」
と桂が言いかけたが、

「あっ、妻が帰ってきましたっ」
と言って、平川は電話を切ってしまった。

 いや……事の真相は奥さんに聞いたらいいんじゃないでしょうか。

 たぶん、しょうもないことのような気がする、と思いながら、夏巳たちは、えっちらおっちら階段を上り、拝殿へと向かった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ここは猫町3番地の5 ~不穏な習い事~

菱沼あゆ
ミステリー
「雨宮……。  俺は静かに本を読みたいんだっ。  此処は職場かっ?  なんで、来るたび、お前の推理を聞かされるっ?」 監察医と黙ってれば美人な店主の謎解きカフェ。 5話目です。

九竜家の秘密

しまおか
ミステリー
【第6回ホラー・ミステリー小説大賞・奨励賞受賞作品】資産家の九竜久宗六十歳が何者かに滅多刺しで殺された。現場はある会社の旧事務所。入室する為に必要なカードキーを持つ三人が容疑者として浮上。その内アリバイが曖昧な女性も三郷を、障害者で特殊能力を持つ強面な県警刑事課の松ヶ根とチャラキャラを演じる所轄刑事の吉良が事情聴取を行う。三郷は五十一歳だがアラサーに見紛う異形の主。さらに訳ありの才女で言葉巧みに何かを隠す彼女に吉良達は翻弄される。密室とも呼ぶべき場所で殺されたこと等から捜査は難航。多額の遺産を相続する人物達やカードキーを持つ人物による共犯が疑われる。やがて次期社長に就任した五十八歳の敏子夫人が海外から戻らないまま、久宗の葬儀が行われた。そうして徐々に九竜家における秘密が明らかになり、松ヶ根達は真実に辿り着く。だがその結末は意外なものだった。

先生、それ、事件じゃありません2

菱沼あゆ
ミステリー
女子高生の夏巳(なつみ)が道で出会ったイケメン探偵、蒲生桂(がもう かつら)。 探偵として実績を上げないとクビになるという桂は、なんでもかんでも事件にしようとするが……。 長閑な萩の町で、桂と夏巳が日常の謎(?)を解決する。 ご当地ミステリー。 2話目。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

仏眼探偵II ~幽霊タクシー~

菱沼あゆ
ミステリー
「雨でもないのに、傘を差した男がタクシーに乗ってくるんです……」  ※すみません(^^;   ラストシーンで名前間違えてました。

先生、それ、事件じゃありません

菱沼あゆ
ミステリー
女子高生の夏巳(なつみ)が道で出会ったイケメン探偵、蒲生桂(がもう かつら)。 探偵として実績を上げないとクビになるという桂は、なんでもかんでも事件にしようとするが……。 長閑な萩の町で、桂と夏巳が日常の謎(?)を解決する。 ご当地ミステリー。

あまりさんののっぴきならない事情 おまけ ~海里のろくでもない日常~

菱沼あゆ
キャラ文芸
あまりさんののっぴきならない事情 おまけのお話です。 「ずっとプロポーズしてる気がするんだが……」

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

処理中です...