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先生、事件ですっ!

怪盗Xの正体は――

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「桃太郎ソフトクリームとか売ってるらしいぞ」

「……桃太郎が入ってるんですかね?」

「桃が入ってるんじゃないのか?」

 それだと、桃ソフトじゃないのか? と夏巳は思う。

 ちなみに、怪盗Xの正体はおそらく、桂のファン一号、二号を名乗っている夏巳の友人、祥華さちかとバレー部のキャプテン、佐川だ。

 ふたりとも、今日、夏巳が桂と津和野に行くことを知っている。

 それをなんとしても阻止したかった二人は、より魅力的な事件を桂の前にチラつかせることで引き留めようとしたのだろう。

 ……そのうち、先生のためにと殺人事件を起こさなきゃいいが、と夏巳は心配する。

「二人とも犬を飼ってますからね」

 いつぞや、桂のために逃がそうとした犬たちだ。

「散歩してて、お弁当屋さんの前で出会って思いついたんでしょう」

 そもそもあの二人、仲はよくないので、たまたま出会って、夏巳と桂が津和野に行く話になったのではないかと思う。

「先生に美容院に来てくださいと言ったのは佐川先輩ですね。
 佐川先輩の親御さんがお勤めなんじゃないですか?」

 それもあって、佐川はあの辺りで犬を散歩させているのではないか。

 わざわざあのカードを桂が見せてきたことからいって、間違いないだろう。

「脅迫状の切り抜きというと、新聞のイメージですが、週刊誌だったのは、佐川先輩が美容院でいらなくなった週刊誌から切り取ったからですね」

 そして、デカいクルーザーを手配したり、怪盗Xではまずいと思って、株式会社怪盗Xにしたりと、いろいろと立ち回ったのは財力もあり、知恵を貸してくれそうな執事が居る祥華で間違いないだろう。

「三、四日前に、あの二人が弁当屋の前に溜まって話してたのを見たんだ。
 珍しい組み合わせだったんで、なんとなく記憶に残ってたんだよ」

「……そんなに気になるんだったら、あの二人も誘ってあげたらよかったですね」

 桂は事件さえ起こればいいようなので、人が増えても構わなかったのではないかと思って言ったが、

「いや、俺はお前と二人で行きたかったから」
と桂は言う。

 なっ、なにを言うのですかっ、先生っ。

 なんか違う意味がありそうだとわかっていて、ときめいてしまうではないですかっ、と思っていると、案の定、

「あの二人がいると、事件の方が怯えて逃げていきそうだから」
と言う。

 すぐ近くまで来ていたうり坊の郷katamataという道の駅に寄ると、とめられないくらい車が居た。

「……どうしてこんなに車が居るんだ」

 さっきまで一台もすれ違わなかった気がするのに、その山間やまあいの道の駅には、車と人がぎっちりと居た。

「充分、殺人事件が起こりそうなくらい居ますね」
と車からそれらを眺めながら、夏巳は呟く。

 いや、人が居れば起こるわけではないのだが。

「おかしくないか?
 道で全然行き違わないのに駐車場に、こんなにいっぱい車が居るなんて。

 この車たちは未確認飛行物体か?」

「確認してますし、飛行してませんよ」
と夏巳は言ったが、桂は、

「いや、あまりにも唐突に現れたから、宇宙人が運んできたのかと思ったんだ」
と呟く。

 ……車をか。
 何故だ、と思いながら、夏巳は桂の後に付いて、道の駅に入った。

 桃太郎ソフトとやらを買ってもらう。

 どうやら、地元で栽培している桃太郎というトマトのソフトクリームだったらしく、白いソフトクリームに赤く美しいトマトソースが螺旋状にまぶしてある。

 トマト特有の香りもちゃんと残っていて美味しい。

 桂は食べないというので、夏巳ひとりで食べた。

「桃太郎、入ってなかったですね」

「うり坊も入ってないな」

「……生臭いじゃないですか」
と山を眺めて言い合いながら、外の空気を充分吸って身体を伸ばす。

 ナビ様のお教えに従い、津和野に向かって、ふたたび出発した。



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