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見知らぬ客
あやかしに同情されました
しおりを挟む「あやかし以上の闇って、我々に闇なんてないからな」
なにものにも縛られないから、とヒョウは言う。
「お前たちはやること多くて大変だな」
翌日の放課後。
またヒミツの購買部に来ていた菜乃は、今日は会長は来ないのか、と思いながら、地下に下りる階段を振り返っていた。
「わたしたち、あやかしにしがらみなんてない。
人間なら、店が繁盛しないと気になるとかあるんだろうが。
わたしは客は来ても来なくても関係ないし」
「じゃあ、なんでお店やってるんですか?」
ヒョウはカウンターにダルそうに頬杖ついて言う。
「わたしは捨てることが許されないからだよ。
だから、こうして、いる人間に『いらないモノ』を売ってるんだ」
「捨てることが許されない?
あやかしの世界にはゴミの収集がないとか?」
「もちろんないが。
そういう話じゃあない」
とヒョウは笑う。
「なんでいらないモノを捨てたらいけないんですか?
あやかしの世界にも、SDGsとかあるんですか?
それで簡単に捨てたらいけないとか?」
「ほんと、お前たち人間はいろんなことに、とらわれて可哀想だな」
あの会長とか、と言うヒョウに、
「会長はなにに、とらわれてるんですか?」
と菜乃はきいてみた。
「あいつは探してるモノがあるんだよ」
「探してるモノ?」
「はじめて、この購買部に迷い込んだとき、あいつは言ったんだ。
『もしかして、俺の探しているモノ、ここにありませんか?』って。
『俺には大切なモノで、どうしても見たいモノだけど。
他人には価値のないモノで、いらないモノだから』
そう言ってたな」
――会長には大切なモノだけど、他の人には、いらないモノか……。
菜乃はふと気づき、
「今、何時ですか?」
とヒョウにきいてみた。
「わたしに時間がわかるわけないだろう」
今日はわからないのか?
と問われ、
「昨日は会長が腕時計を持ってたから」
と菜乃は答える。
そうなのだ。
腕時計をやっていたから、会長はこの学校の生徒ではないと気がついたのだ。
この中学校は腕時計を禁止している。
学校のあちこちに壁かけの時計があるし。
高価な腕時計を持ってきたら、あぶないからだそうだ。
「そろそろかなあ」
「なにを待ってるんだ?」
ひょい、とヒョウがカウンターから身を乗り出す。
菜乃が見ている方角を見た。
「花子さんですよ」
やがて、バーンッと廊下の突き当たり付近の扉が開き、おかっぱ頭の女の子が飛び出してきた。
その姿が昨日のように、白い壁の向こうに飲み込まれる前に、菜乃は叫んだ。
「花子さんっ、ちょっと待ったあっ」
ビクッという顔をして、花子さんが振り返る。
「あやかし、止めるなよ」
とうしろでヒョウが苦笑いしていた。
菜乃は花子さんに近づき言う。
「花子さん。
なんで、いつも4時44分に飛び出してくるんですか?」
答えはないかと思ったが、花子さんはトイレの方を気にしながら、
「わたしじゃない」
と言った。
「え?」
「4時44分に飛び出してきているのはわたしじゃない」
それだけ言って、壁の向こうに走り去っていった。
「どういう意味だ?」
と言うヒョウを振り向き、菜乃は問う。
「あの~、そういえば、今日は会長来ないんですかね?」
「なぜ、そんなことをきく?」
「いや~、ひとりで確かめたくないからですよ」
そう言いながら、菜乃は廊下の突き当たりを見、苦笑いした。
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