3 / 30
13日の金曜日
商売上がったりだよっ
しおりを挟む「……たしかにいらないですね」
その消しゴムを見つめ、菜乃は言う。
べつに恋をはじめたいとか思っていなかったからだ。
「お前、乙女心がないな」
自分でいらないものだと言っておきながら。
実際にいらないと言うと、ケチをつけてくる。
「なんか怖いモノとか売ってるのかと思ってました」
となにもない棚を見つめ、菜乃が言うと、
「まあ、そういうのも扱ってるんだが。
近頃はここより怖いモノを普通に売ってるからな」
とヒョウは言う。
見ろ、とヒョウは最新型のスマホを出してきた。
「……スマホ使ってるんですか?」
その問いかけには答えず、ヒョウは叫ぶ。
「『呪いの人形』とかフリマアプリで売ってるんだぞ!?
商売上がったりだっ」
「呪いなんてあるんですかね~」
スマホの画面に映し出された古い西洋の人形を見ながら、菜乃は疑わしげにそう呟いた。
「だって、確実に呪われるって、ここに書いてあるぞっ」
画面を指差し、ヒョウは言う。
――確実に呪われる。
そんなことってあるのだろうか。
呪いの人形との相性(?)だってあるだろうし。
「あ」
と菜乃は手を打った。
「さては、宝の地図とか。
おじいさんの遺産のありかとかが入ってるんですよ。
確実に呪われますよ、それを狙ってる人たちに」
「……おまえ、意外に現実主義者で面白くないな。
まあ、本気でいろいろ怖がるようなやつは、ここまで下りてこないか」
ヒョウは妙に納得したようにそう言った。
古い紙に筆でなにやら書きつける。
「それにしても、ここに下りてきて、この店を見つけたやつは久しぶりだ。
礼にタダでお前にいいモノをやろう」
いや、この店、いらないモノしかなかったのでは?
と思う菜乃にその古いワラ半紙のようなものを渡し、ヒョウは言う。
「この通りに歩いてみろ」
紙には、
「左、左、左、右、右、左、左」
と書かれていた。
「……はあ」
菜乃はその紙を見ながら、ありがとうございます、と頭を下げた。
とりあえず、言われた通り、歩いてみる。
店から左に行くと、長く暗い廊下がある。
ときどき蛍光灯がまたたくので、なんとか先が見えた。
そのまま突き当たる。
「……左」
と呟き、左を見ると、上にのぼる階段がある。
階段をのぼり、踊り場で、また左に曲がる。
一階についたが、なぜか真っ暗で、また蛍光灯がまたたいていた。
あれ~?
もう夜になっちゃったのかな?
雨は降ってはいたけど、まだ明るかったのに。
そう思いながら、菜乃は廊下を直進すると、右に曲がり、階段を下りた。
踊り場を左に曲がり、さらに左に曲がって廊下に出る。
そこは、さっきの場所だった。
「一周してきただけじゃん」
そう呟いたが、青白い光に時折照らし出される白い壁のところに購買部はなく。
壁のど真ん中になにかが貼ってあった。
お札だ。
なにかの雑誌の付録を雑に切り取ったもののようだ。
涼太が言っていたお札だろう。
菜乃は、それをペリッとはがして、上に上がる。
もう雨は上がっていて、一階は夕陽に照らし出されていた。
暗いところから上がってきたので、より一層眩しく感じる。
部活のかけ声で騒がしいグラウンドを通り、新校舎に戻った。
教室の扉は開いたままで、みんなの話し声がしている。
どうやら、すでに次の勝負をしていたようだ。
「おっ、菜乃、お札とってきたのか」
机の上に腰かけていた涼太が菜乃の手にあるお札を見て笑う。
「菜乃ー。
ヒミツの購買部、あったー?」
と仲のいいスミ子が笑ってきいてくる。
小柄でキノコのようなふわっとしたショートヘアをしている可愛い子だ。
「あったよー」
と菜乃は答えたが、
「だよねー」
とカードを切りながらスミ子は笑って言う。
――だよね?
あっさりそう言うスミ子を不思議に思ったが。
どうやら、
『ヒミツの購買部、あったー?』
という問いかけの答えは、
『なかったよー』
で決まっている、とスミ子は思っていたようだ。
こちらの返事をちゃんと聞かずに相槌を打っただけのようだった。
「あー、負けた負けたっ」
と涼太が机にカードを置く。
「今度は俺がダッシュで下りてくるぜ」
と行こうとするので、菜乃は、
「涼太、誕生日いつだったっけ?」
ときいてみた。
「えっ?
祝ってくれんの?
でも、惜しいな。
もう終わったよ、五月だから。
って言うか、おまえ、俺の誕生日、知らねえの?」
「いいから、早く行けよー、涼太ー」
「菜乃ー、代わりに入れー。
もちろん、お前、大貧民な」
と言うみんなに、またトランプの輪に引き込まれた。
そうか。
涼太は15か。
じゃあ、きっと、あの購買部、見ることはないな。
配られたカードを見ながら、菜乃は思う。
しとしとと雨の降る月曜日。
菜乃は頼まれもしないのに、地下に下りてみた。
蛍光灯は一発で明るくついた。
白い壁は真っ白で、あの購買部は何処にもない。
――いつでもいるって言ったのに、嘘つきだなあ。
なにもないのに下りてみた自分がマヌケみたいで。
菜乃は、あのとき、
「あ、それ、もういらねえからやるよ」
と涼太がくれたあのお札を購買部があった位置に貼ってみた。
「左、左、左、右、右、左、左」
あの紙に書いてあった通り一周した菜乃はもう一度下りてくる。
青白くまたたく蛍光灯の下、カウンターに頬杖ついて、だるそうに座っている男がいた。
「いらっしゃい」
とヒョウがこちらを見て言った。
まるで来ることがわかっていたかのように。
「今度こそ、なにか買いなよ」
そう言って、ヒョウは、にやりと笑う。
2
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
【完】ノラ・ジョイ シリーズ
丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴*
▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー
▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!?
✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
はんぶんこ天使
いずみ
児童書・童話
少し内気でドジなところのある小学五年生の美優は、不思議な事件をきっかけに同級生の萌が天使だということを知ってしまう。でも彼女は、美優が想像していた天使とはちょっと違って・・・
萌の仕事を手伝ううちに、いつの間にか美優にも人の持つ心の闇が見えるようになってしまった。さて美優は、大事な友達の闇を消すことができるのか?
※児童文学になります。小学校高学年から中学生向け。もちろん、過去にその年代だったあなたもOK!・・・えっと、低学年は・・・?
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
【完結】アシュリンと魔法の絵本
秋月一花
児童書・童話
田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。
地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。
ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。
「ほ、本がかってにうごいてるー!」
『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』
と、アシュリンを旅に誘う。
どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。
魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。
アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる!
※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。
※この小説は7万字完結予定の中編です。
※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
【完結】僕らのミステリー研究会
SATO SATO
児童書・童話
主人公の「僕」は、何も取り柄のない小学校三年生。
何をやっても、真ん中かそれより下。
そんな僕がひょんなことから出会ったのは、我が小学校の部活、ミステリー研究会。
ホントだったら、サッカー部に入って、人気者に大変身!ともくろんでいたのに。
なぜかミステリー研究会に入ることになっていて?
そこで出会ったのは、部長のゆみりと親友となった博人。
三人で、ミステリー研究会としての活動を始動して行く。そして僕は、大きな謎へと辿り着く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる