上 下
10 / 30
王様が来てしまいました

今度はないんだったな

しおりを挟む
 
「こんなものしかございませんが」

 アイリーンたちは従者らが整えてくれた食堂に料理を並べたが。

 干し肉や硬いパン。
 味はバッチリだが、具のないスープしかなかった。

 味がちゃんとついているのは、メディナが調味料だけは、きっちり持ち歩いていたからだ。

「ほんとうに、こんなものしかないんだな……」

 そんなエルダーの呟きに、やはり、王様のお口には合わなかったか、とアイリーンはちょっと困った顔をしたが。

 エルダーは自分の皮袋からゴソゴソとイモや果物などを出してきた。

「私の食糧を分けてやろう」

「あっ、いえっ。
 そんな恐れ多い……」

 そう言いかけ、ぷっとアイリーンは笑う。

「わずかな食糧を譲り合うとか。
 なんか道に迷って野宿してる人たちみたいですね。
 こんな立派なお城の中なのに」

「そうだな。
 だが、まあ、これはこれで美味いな」

「そうですね、いけますよ、これ」
とエルダーやイワンたちが言うのをみんなニコニコ眺めていた。


「王様は結構気さくな方ですね。
 あんな料理で良いだなんて」

「いつも戦場にいるから、ああいう食事、慣れてるんじゃない?
 そんな悪い人でもなさそうなのに、何故、どんどん領地を広げてってるのかしらね?」

 メディナとそんな話をしながら、アイリーンは王の寝床をできるだけいい感じに整えていた。

 扉が開き、エルダーが現れる。
 この城にいた従者たちと語り合っていたようだった。

「マントにくるまって寝るから適当でいいぞ」

「そうですか。
 すみません。

 今度はちゃんと……」
と言いかけ、

 ああ、今度はないんだったな、とアイリーンは思う。

 二度とここに来ることはないだろうし、と先程、言っておられたし。

「お前が謝ることはない。
 こちらの不手際だ」

 妃候補を迎える城がこんなに手入れされてないことの方が問題だ、とエルダーは言う。

「早めに生活に必要な物を届させよう。
 使用人も」

「いえいえ、ここまで運んで来られるの、大変なんで。
 大丈夫ですよ」

 すごい道なんで、とアイリーンが言うと、エルダーは眉をひそめる。

「大変だから、こちらから運ぼうと言ってるんだ。
 お前たちだけで、どうするつもりだ」

「ちょっとずつ運びますよ。
 いい運動になります。

 ねえ?」
とアイリーンとメディナは視線を交わして笑い合う。

「……たくましいな、ここの女たちは」

 長距離の移動で疲れたらしいエルダーは、
「おやすみ」
と言うと、立派な天蓋付きのベッドにごろりと横になった。

 いや、立派なのは外枠だけで、古びたシーツしかない寝床なのだが。


「おやすみなさいませ」
と頭を下げて出たあと、メディナが訊いてくる。

「姫様、ほんとうに一緒におやすみになられなくていいんですか?」

「王様はそんなこと求めてらっしゃらないわよ。
 ……それに、誰かと床を共にすると、私もいろいろ大変だし」

 そうですよねー、と言うメディナの声が装飾品のない、がらんとした石造りの廊下に反響する。

 二人は無駄に長い廊下を戻っていった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

捧げられしハルモニアと無口な王様  ~この国を救うため、私、正妃になりますっ~

菱沼あゆ
恋愛
 妃に選ばれるのは、夜伽のとき、王様をしゃべらせた娘――。  貧乏な国の姫として生まれたハルモニア。 「大丈夫ですっ!  我が国にはまだ宝があるではないですかっ!  美しきハルモニア姫がっ!」 「は?」  国を救うために、大国に嫁がされたハルモニア。  だが、その大国もある意味、崩壊の危機に瀕していて――。  仕方なく嫁いできただけだったけど、王都と我が国を守るため、私、正妃を目指しますっ! (「小説家になろう」にも掲載しています。)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...