8 / 30
王様が来てしまいました
私のために美しく装ってくれていたのではないのか?
しおりを挟む「すみません。
来たばかりで、王様をおもてなしするようなものがなにもなくて」
とりあえず、客間っぽい場所に王、エルダーを通し、そう言うと、
「国からなにか持ってきてはいないのか。
みな、大層な嫁入り支度をしてきていたぞ」
と言われる。
「はあ、私は数合わせに連れてこられただけなので」
そこで、イワンがアイリーンの素性について説明してくれた。
「ほう。
お前は、アルガス旧王家の娘なのか」
そこで、イワンがまたエルダーに耳打ちする。
「アルガスの姫からはよく酒宴のお誘いが――。
順番だからといって断っておりますが」
エルダーは溜息をつき、
「お前の方には国からの支援がないのか。
では、今後、私がここに衣食住に関するものは運ばせよう。
私は贅沢は好きではないが。
本日の一宿一飯の恩義、返さねばならないから、宝飾品なども欲しいものがあれば言え」
と言う。
「いえいえ。
結構です。
こんな人里離れた崖の上で着飾ったところで、誰も見ませんし」
とアイリーンは言って、
「これ、王様が今、目の前にいらっしゃるではないか」
とイワンに注意される。
それにしても、物はいいのだろうが、かなり古びている椅子に座っていても、さすが王様だ、オーラがある、とアイリーンはちょっと感心して、エルダーを眺めていた。
「まあ、私も二度とここに来ることはないだろうしな。
他に欲しいものなどはないか」
アイリーンは小首を傾げ言う。
「今のところ、ないですね。
本はここの図書室に読みきれないほどございますし」
「そうか。
では、思いついたら言え。
ところで、お前は今、着飾らないと言ったが、美しい衣をまとっているではないか」
その衣は、私のために美しく装ってくれていたのではないのか?
と問われる。
「いえいえ。
こんなところまで王様がいらっしゃるとか思わないじゃないですか。
涼しいんです、これ」
とアイリーンがくるりと回って見せると、衣もふわりと回る。
「ほう。
これは見事な薄さだな。
それでいて、重ねると肌が透けない。
見れば見るほど、美しい衣だ」
と王は身を乗り出して、衣を眺める。
そこで、メディナがイワンに耳打ちをした。
「職人たちは昔通り、こうした貴重な織物などを旧王家だけに贈って来るそうです」
とイワンがそれを王に伝える。
「……そこの召使い、直接私に言ってもいいのだぞ」
いえいえ、恐れ多い、とメディナは下がっていく。
「しかし、それでは現王家の姫は面白くないだろうな」
いえいえ、とアイリーンが口を挟む。
「それはやはり、現王家への貢ぎ物の方が……」
多いです、と言いかけやめた。
なに?
そんなにたくさん?
だったら、寄越せと言われかねないからだ。
そんなアイリーンの表情を読んだようにエルダーは言う。
「私は強欲ではない。
無茶な要求はしない」
「でも、周辺の友好国から、美しい姫や賢い姫を根こそぎ集めているではないですか」
「それは、美しい姫をエサに国同士が婚姻で結び付かれては困るし。
賢い娘が賢い王を産んでも困るしからだ」
姫様、当たっておりましたよっ、とメディナが喜ぶ。
「 だが、集まりすぎている……」
と若き王は苦悩する。
「いやそれ、美しいか? とか。
あまり賢そうには見えないが……、というのまで送ってくるのだ」
はあ、使者の人たち、おのれのメンツにかけて、ある程度の人数を送らねばっ、と頑張ってましたからね。
「だが、こういうのは、数より質だろう?」
なあ、とエルダーは言うが、
いや~、私もその数の方に入っていると思うのですが……、
と思いながらアイリーンは訊いてみた。
「それにしても、こんなにたくさんの妃や愛妾をどうされていらっしゃるのですか?」
62
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる