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王様が来てしまいました

私のために美しく装ってくれていたのではないのか?

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「すみません。
 来たばかりで、王様をおもてなしするようなものがなにもなくて」

 とりあえず、客間っぽい場所に王、エルダーを通し、そう言うと、
「国からなにか持ってきてはいないのか。
 みな、大層な嫁入り支度をしてきていたぞ」
と言われる。

「はあ、私は数合わせに連れてこられただけなので」

 そこで、イワンがアイリーンの素性について説明してくれた。

「ほう。
 お前は、アルガス旧王家の娘なのか」

 そこで、イワンがまたエルダーに耳打ちする。

「アルガスの姫からはよく酒宴のお誘いが――。
 順番だからといって断っておりますが」

 エルダーは溜息をつき、
「お前の方には国からの支援がないのか。
 では、今後、私がここに衣食住に関するものは運ばせよう。

 私は贅沢は好きではないが。
 本日の一宿一飯の恩義、返さねばならないから、宝飾品なども欲しいものがあれば言え」
と言う。

「いえいえ。
 結構です。

 こんな人里離れた崖の上で着飾ったところで、誰も見ませんし」
とアイリーンは言って、

「これ、王様が今、目の前にいらっしゃるではないか」
とイワンに注意される。

 それにしても、物はいいのだろうが、かなり古びている椅子に座っていても、さすが王様だ、オーラがある、とアイリーンはちょっと感心して、エルダーを眺めていた。

「まあ、私も二度とここに来ることはないだろうしな。
 他に欲しいものなどはないか」

 アイリーンは小首を傾げ言う。

「今のところ、ないですね。
 本はここの図書室に読みきれないほどございますし」

「そうか。
 では、思いついたら言え。

 ところで、お前は今、着飾らないと言ったが、美しい衣をまとっているではないか」

 その衣は、私のために美しく装ってくれていたのではないのか?
と問われる。
 
「いえいえ。
 こんなところまで王様がいらっしゃるとか思わないじゃないですか。
 
 涼しいんです、これ」
とアイリーンがくるりと回って見せると、衣もふわりと回る。

「ほう。
  これは見事な薄さだな。
 それでいて、重ねると肌が透けない。

 見れば見るほど、美しい衣だ」
と王は身を乗り出して、衣を眺める。

 そこで、メディナがイワンに耳打ちをした。

「職人たちは昔通り、こうした貴重な織物などを旧王家だけに贈って来るそうです」
とイワンがそれを王に伝える。

「……そこの召使い、直接私に言ってもいいのだぞ」

 いえいえ、恐れ多い、とメディナは下がっていく。

「しかし、それでは現王家の姫は面白くないだろうな」

 いえいえ、とアイリーンが口を挟む。

「それはやはり、現王家への貢ぎ物の方が……」

 多いです、と言いかけやめた。
 
 なに?
 そんなにたくさん?
 
 だったら、寄越せと言われかねないからだ。
 
 そんなアイリーンの表情を読んだようにエルダーは言う。
 
「私は強欲ではない。
 無茶な要求はしない」

「でも、周辺の友好国から、美しい姫や賢い姫を根こそぎ集めているではないですか」
 
「それは、美しい姫をエサに国同士が婚姻で結び付かれては困るし。
 賢い娘が賢い王を産んでも困るしからだ」

 姫様、当たっておりましたよっ、とメディナが喜ぶ。 

「 だが、集まりすぎている……」
と若き王は苦悩する。
 
「いやそれ、美しいか? とか。
 あまり賢そうには見えないが……、というのまで送ってくるのだ」

 はあ、使者の人たち、おのれのメンツにかけて、ある程度の人数を送らねばっ、と頑張ってましたからね。

「だが、こういうのは、数より質だろう?」

 なあ、とエルダーは言うが、

 いや~、私もその数の方に入っていると思うのですが……、
と思いながらアイリーンは訊いてみた。

「それにしても、こんなにたくさんの妃や愛妾をどうされていらっしゃるのですか?」



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