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眠らせ森の恋
夢か現か
しおりを挟むなんだか立て続けに悪い夢を見た……。
ひんやりした手が額に触れて、奏汰は目を覚ました。
「凄い熱じゃないですか、奏汰さん」
つぐみが自分を覗き込んでいる。
「冷たいな、お前の手」
と言って握る。
冷たくて可哀想だと思ったからだ。
だが、つぐみは赤くなって俯き、
「全然冷たくないですよ。
奏汰さんがお熱があるからです」
と言う。
お熱って子どもか、と思いながら、起き上がろうとすると止められる。
「今日はお休みになった方がいいと思います。
風邪ですよ」
「いや、俺は風邪ひいたことのない人間だぞ。
ひくわけないじゃないか」
と言ったのだが、
「ひいてます」
とあっさり、つぐみは言ってくる。
「いや、俺がひくはずはない。
風邪は、精神がたるんでる奴がひくものだ」
「じゃあ、たるんでるんですよ」
こいつ、ぽあーっとした、いつでも小春日和な顔で容赦がないな。
「寝ててください。
西和田さんに連絡しておきますから」
と言うつぐみに、
「……西和田の連絡先を知っているのか」
と言うと、
「いつも秘書室にいらっしゃるじゃないですか」
と言う。
そういう意味か。
まぎらわしいんじゃ、ボケ。
「奏汰さん……」
なんだ? と言うと、
「思ってることが全部口から出てますよ」
と言われる。
うーん。
どの辺からだろうな。
今、お前、俺より西和田の方がいいんじゃないかとか思ったら、それもまた、全部口から出てしまうのだろうか。
いっそ、出したい気もしているが。
「咳とか出ませんね。
知恵熱ですかねー?」
とつぐみは言う。
「なんでだ……」
「いえ、初めて編み物なさったので」
頭を使い過ぎたのかと、と言う。
知恵熱か。
ある意味そうかもな、と思いながら、つぐみを見た。
女の一挙手一投足に振り回されるなんて初めてのことだから。
心配そうに自分を見るつぐみに言う。
「今日は休めない。
知ってるだろう?
支社長たちも今日の会議には集まるんだ。
どうしても行かないと」
「無理です。
と言いますか、今のまま、無様な姿をお見せするのは逆効果だと思いますが」
やはり容赦なくつぐみは言ってきた。
彼女は知っているからだ。
問題を起こして辞めた父親とその後を継いだ自分を快く思っていないものも支社長たちの中に居ることを。
つぐみは、だからこそ、そんな弱った姿は見せるな、と言う。
「わかった。
二時間で治す」
時計を確認し、
「今から寝るから、二時間遅れて行くと西和田たちに伝えてくれ」
と言うと、はい、とつぐみが言った気がするのだが、それが夢か現かさえ、もうよくわからなかった。
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