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社長、横恋慕かもしれません
高校生じゃあるまいし
しおりを挟むまだセーターを編んでいる。
靴下で終わりじゃなかったのか……。
誰のなんだ、つぐみ、と家に帰った奏汰は、リビングの入り口から、自分の帰宅にも気づかず、ソファで編み物に没頭しているつぐみを見ていた。
誰に編んでるんだ。
明らかに男物だが。
俺は靴下で、そいつはセーターかっ、と思っていると、立ち尽くしている自分に気づいたつぐみが、
「あっ、すみませんっ。奏汰さん」
と言ってきた。
「すぐご飯にしますね。
今日は、たまごふわふわです」
「……なんだって?」
「たまごふわふわです」
「それ、江戸時代の料理だよな」
沸騰した出汁にメレンゲを流し込んで作る、ふわふわとした食感の江戸時代から続く玉子料理だ。
近藤勇も好きだったという。
「図書館に、江戸時代の料理の特集コーナーがあったんですよ~」
と言いながら、つぐみは楽しげにキッチンに入って行く。
その背中を見ながら、奏汰は、お前は図書館に踊らされている……と思っていた。
つぐみが料理を温める音がする。
奏汰はまだ立ったまま、つぐみが立ち上がったあと残されたセーターを見下ろしていた。
……気になるな、あのセーター。
社長室に西和田しか居ないとき、奏汰は、彼に訊いてみた。
西和田は結構、つぐみと話してる。
しかも、自分に対してよりは、腹を割って話しているように見える、と思ったからだ。
「西和田」
と呼びかけると、はい、と彼は読み上げていたファイルから顔を上げた。
「お前、つぐみのセーター、誰に編んでるのか訊いたか?」
すると、西和田は特に面白くもなさそうに、
「社長でしょう?」
と言う。
「……つぐみがそう言ったのか?」
「言ってましたよ」
そ、そうなのか?
「社長、高校生じゃあるまいし。
暇なこと気にしてないで、次のページ見てください」
と西和田は素っ気なく言ってくる。
お前、今、暇なこと気にしてないでっつったか、このスパイ。
この間から、なにか喧嘩腰だな、と思いながら、西和田の整った横顔を見ていた。
今まで、スパイなだけに気を使って話している感じだったのに。
じゃあ、気の置けない仲になかったのかと言うと、そうでもない気がするのだが――。
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