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社長、横恋慕かもしれません
眠れない夜
しおりを挟むどうしましょう。
眠れません。
今日はニンニクとか食べてないのに。
夜、目が合わせられないまま、食事を済ませ、つぐみはいつものようにソファで膝を抱えていた。
すると、自分と同じようにソファの端に座っていた奏汰がテレビを見たまま言ってきた。
「眠れないのか」
「……なんでわかったんです?」
と言ったが、返事はなかった。
その代わり、
「膝枕してやろうか」
と奏汰は言ってきた。
え? と振り返ると、
「膝枕してやる」
と繰り返す。
「そしたら、よく眠れるんだ」
よく眠れるって――。
「誰にしてもらったんですか?」
と思わず恨みがましく見上げると、既に立ち上がっていた奏汰は、うん? という顔をしたあとで、足を止め、
「お前だ」
と笑う。
ええーっ?
私、してないですけどーっ、と思っている間に、奏汰の部屋に連れていかれる。
つぐみの手を引く奏汰は、
「大丈夫だ。
今日はなにもしない。
いや―― 昨日もほぼなにもしてない感じだけどな」
とちょっと納得いかないように呟いていた。
まったくですよ、と思う。
唇がわずかに触れたくらいで大騒ぎしてしまったが。
あのあと、西和田にされたことに比べたら、奏汰のしたことなんて可愛いもんだった、と思っていた。
もしかしたら、私が初めてキスした相手は西和田さん、ということになってしまうのだろうか。
失敗したな、と思っていた。
何故なのかはわからないが――。
奏汰は先にベッドに上がり、昨日の自分のように枕許に座ると、
「さあ、来い。
つぐみ」
と膝を叩いてくる。
なんか犬でも呼んでるみたいなんですけど。
……わん、と思いながらも、せっかく親切で言ってくれているのだからとベッドに上がってみた。
「よし、此処に頭をのっけて」
と最初に、自動車教習所に通ったときのように丁寧に説明される。
さあ、寝ろ、と奏汰の膝に頭を押しつけられ、布団をかけられた。
ふわりとした温かさとともに、奏汰の匂いに包まれる。
うわっ、と思って、思わず起き上がろうとしたが、頭を大きな手で押さえつけられた。
いてててて、と言うと、
「いいから寝てくれ」
と奏汰は言ってくる。
「俺に不眠になって欲しくないんだろ?
お前が元気がないと、なんだか俺も落ち着かないんだ」
ほら、と昨日の話を引っ張り出して言ってきた。
「ストレスが溜まるから」
ダンボールでも持ってこい、お前への不満を叫ぶから、と言って、少し笑う。
「……おやすみ、つぐみ」
そう自分を見下ろす奏汰の顔がやけに、やさしげに見えて、どきりとしてしまった。
あの……余計、眠れそうにありません、と思っていた。
奏汰は最初は自分の膝の上で固くなっていたつぐみが寝息を立て始めるのを眺めていた。
眠らせ姫、か。
だが、大抵、お前の方が先に寝ているような、と思う。
自分は今までの人生、それなりモテてきたと思うのだが。
結局、肝心なときに、その経験は、なんの役にも立たなかったようだな、と思っていた。
「おやすみ、つぐみ」
つぐみの唇にキスしようとして、夕べ、飛んで逃げたつぐみを思い出し、やめる。
寝ている隙にというのが卑怯なような気もしたし、したことが彼女の記憶に残らないのが嫌だという思いもあった。
俺も眠れなくなりそうだしな、と思い、つぐみを見下ろす。
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