眠らせ森の恋

菱沼あゆ

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いろいろと迷走中です

俺も誘えよ

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「失礼します」
と社長室に入ったつぐみが、

「粗茶ですが」
とお茶を出すと、

「……だから、それ、此処の茶だろ」
と言ったあとで、奏汰が、

「なんだ、これは」
と言ってくる。

 お茶の横に添えられているものを凝視していた。

「いえ、わざわざ持って行く、と言ったので、なにかすごいお茶かお茶菓子でもないかな、と思って探したんですが、今日は、たまたまございませんで」

 これをお持ちしました、と駄菓子屋で買ったイカの駄菓子を手で示す。

「イカ臭くなるだろうが。
 午後商談があるのに」
と奏汰は渋い顔で言う。

「っていうか、お前、いつ、駄菓子屋行った」

「この間の休みに一緒に出かけたとき、書店のあとちょっと寄ったショッピングモールの二階にありましたよ」

「俺も誘えよ」

「マッサージチェアに長くかかってるからですよ」

 家にあるのに、と文句を言うと、何故か、奏汰が少し笑った。

「なんですか?」
と見ると、いや、と言う。

「ところで、なにか用だったんじゃないのか」

 ああ、そうだっ!
とつぐみは、ようやくなにをしに来たのか、思い出す。

「じ、実は、次の日曜日に、お父さんたちが遊びに来たいと――」

「くればいいじゃないか」

 そうあっさり奏汰は言ってくる。

「でもあの、新婚っぽく見えるかどうか不安なんですが」

 いや、結婚はまだしていないが。

 一緒に住み始めたばかりのカップルにも見えそうにない気がするんだが、と思っていたのだが。

「見えるんじゃないですか?」

 いきなり声がして、二人で、うわっ、と振り向く。

 いつの間にか、西和田が封書を手に立っていた。

 西和田は、
「さっき、ノックしましたよ」
としれっと言って、

「……返事してねえだろ」
と奏汰に言われていた。
 


「いよいよ、親の監査が入るのか」
 一緒に社長室から戻りながら、西和田が楽しそうに言う。

「西和田さん、完っ全にっ面白がってますよね。
 うちのことにばかり興味もってないで、彼女とか居ないんですか?」
と言うと、お、なんだ、その上から目線、と言われてしまう。

「彼女とかめんどくさいだろ。
 後腐れなく付き合えるんならいいけど、すぐ結婚とか言い出す奴ばっかりだし」

「意外な人でなしですね。
 とりあえず結婚しろとか言う社長がいい人に思えてきましたよ」

「その人買いみたいな行為の何処がいい人だ。

 っていうか、ずっと、すったもんだしてるお前と社長を見てて。

 ああ、結婚っていいもんだな、俺もしようかな、なんて思うようになるとでも思っているのか」
と言われ、まあ、そりゃあそうですよね、と思ってしまった。

「結婚していいことあったか?」
と問われ、いや、まだ結婚はしてないんですけど、と往生際悪く言いながらも、

「そ、そうですね。
 あるような気もしますよ」
と答える。

 西和田が自分たちのせいで、結婚に幻滅しては悪いと思ったからだ。

「えーと。
 帰り時間を気にせずに、一緒にお酒呑んだりとか出来るし。

 一緒に料理作ったり。
 寝ちゃったら、お姫様抱っこで運んでくれたり」

「お前、社長になにもさせないくせに、お姫様抱っこで運ばせてるのか?」

 やっぱ、やだ、結婚、と一生懸命考えたのに言われてしまう。

「えーっ。
 きっといいですよ、結婚。

 うちは駄目でも」
と根拠のないことを言いながら、つぐみは先を行く西和田を追いかけた。


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