眠らせ森の恋

菱沼あゆ

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いろいろと迷走中です

ご機嫌斜めですね、西和田さん

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「どうしたんですか? 西和田さん。
 ご機嫌斜めですね」

 最近パソコンを使うことが多いので、目にいいサプリを飲みに西和田が給湯室に行くと、ちょうどつぐみが居た。

「別に悪くない。
 社長は最近、機嫌がいいな」

「えっ? そうですか?
 なんかいつも怒鳴ってるような気が――」
と言うので、そりゃ、お前が怒られるようなことしてるんだろと思う。

 はい、とつぐみがサプリを見て水を出して来たので、
「ありがとう」
と受け取る。

 まあ、こういうところは気が利いてなくもないんだが、と思いながら、それを飲み、
「お前、社長とは、あれからどうなってるんだ?」
と訊くと、

「どうもこうも、なんだか毎日いじめられてますよ」
と言いながら、さっとコップを洗ってくれる。

「……いや、一緒に暮らしてるのに相変わらずなのか」

「相変わらずって?」
と訊いてくるつぐみに、顔を近づけて言う。

「秋名。
 なにが嫌いって、俺はオウム返しに返してくる奴が一番嫌いなんだよ。

 とぼけんな、と思うし、イラッと来る」
と言うと、えー、だって、なんの話だか、ほんとうにわかんないんですよーと言ってきた。

「夜の方に決まってるだろ。
 お前、まさか、まだ本当に社長となんにもないのか」

「ありませんよ。
 冗談じゃないです」

「お前、社長のなにが気に入らないんだ?
 男前だし、仕事も出来る。

 性格もまあ、問題は多分にあるが、悪い方じゃないぞ」

「多分にあるってどの辺でしょうね……」
と呟いたあとで、

「西和田さんは本当に社長のことがお好きなんですね」
とつぐみは、しみじみと言ってくる。

「何処がだ」

「だって、私より社長の評価高いです」

「じゃあ、お前、社長、評価してみろ」

 ええっ? と言ったつぐみは、

「そうですねー。

 まあ、顔は格好いいですよね。
 身長もあるし、体格もいいですよね。

 仕事も出来るし。
 お料理もできるし」

「待て。
 お前、社長に料理作らせてるのか」

「作らせてるわけじゃないですよ。
 作ってくれるんです。

 あと、お酒も作ってくれるし」

「酒も作らせたのか」
と言って、いちいちうるさいですよ、西和田さん、と言われてしまった。

「まさか風呂も入れてもらってるんじゃないだろうな」

「もう~、過保護過ぎですよ。
 社長だっていい大人なんですから、なんでも自分で出来なきゃ」
と言ったあとで、つぐみは、

「あっ、私がなんにもやってないと思ってるんでしょう?」
と言ってくる。

「私だって、お風呂に入ってる社長にわざわざワイン持ってったりしてるんですよ」
と威張ったように言うつぐみに、

「ほほう。
 それは偉いじゃないか」
と言うと、

「……すみません。
 本当は社長を早く寝かせようと思ってです」
と白状してきた。

 褒められて落ち着かなくなったからだろう。

「お前、なんでワイン呑むと、眠くなるか知ってるか?」
「え?」

「低血糖昏睡と同じ状況になるんだ」

 まあ、ワインがというより、酒全般だが、と思っていると、
「じゃあ、やめときます」
とつぐみは青くなって言ってくる。

「いや、そういう状態なんだぞ、と言ってるだけだ。

 みんな好んで酩酊状態になってるんだから、そこのところはいいんじゃないか?

 だが、あの社長に抱かれたくないというのがわからないと言ってるんだ」

「じゃあ、西和田さんが社長に抱かれてみてはどうですか?」
「なんでだ……」

「あっ、そういえばっ」
とそこで、つぐみがいきなり叫び出した。

「社長、催眠術、解けてました?」

 いきなり、鳥になったりしてませんでしたか? と問われ、
「なにをやってるんだ、お前らは……」
と言ってしまった。


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