眠らせ森の恋

菱沼あゆ

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いろいろと迷走中です

危ないとこでした……

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 朝、目を覚ましたつぐみは、自分の顔の目の前に奏汰の顔があるのに気がついた。

 ひいーっ。
 何故、社長が同じ布団にっ? と慌てて飛び起きる。

 こっ、此処はっ?

 ……此処はっ!? と自分が布団を引きずってきたことも忘れ、つぐみは周囲を見回した。

 そ、そうか……。

 リビングで寝たんだった、と思い出し、
「危ないとこでした……」
と呟くと、

「なにが危ないとこだ」
と下から奏汰の声が聞こえてきた。

 ひいっ、と身を引く。

 こちらを向いて、横になったままの奏汰が目を開けていたからだ。

「い、いえ、奏汰さん、やはり寝相が悪くて落ちて来られてたので……」
と言ったのだが、奏汰は、

「俺の寝相が悪いわけないだろ」
 そんなことは言われたことがない、と言う。

「起きてから、お前の布団に入ったんだ」
「なんでですか?」

「……婚約者だから」
「……そうですか」

「なに軽く流してんだ……?」
と言われたが、いや、それより前の一言が引っかかっていたのだ。

 寝相が悪くないと誰に言われたんですか。

 お母様ですか?

 ご兄弟ですか?

 それとも――。

 つぐみは布団を被り、丸くなる。

「出てってください~」
と言うと、

「家からか?」

 俺の家だぞ、と言われた。

「私の布団からですっ」

 そう訴えたのだが、奏汰は、
「嫌だ。
 あったかいから」
と言って出て行かない。

「じゃあ、私が出て行きます」
と行きかけたのだが、朝はそろそろちょっと冷える季節になってきたので、正直、出たくない。

「出るんじゃなかったのか」
と後ろから奏汰が背中を突いてくる。

「こっ、これは私の布団ですっ」
「じゃあ、一緒に寝るか」

 まだ早いし、と後ろから身体に手を回し、引き寄せようとする。

 つぐみは目の前にあったローテーブルの脚をつかんだ。

「たっ、助けてくださいーっ。
 警察を呼びますよーっ」
と言いながら、ローテーブルごと引きずられる。

 怨霊に井戸に引きずり込まれているみたいだ、と思いながら、
「ひゃくとうばーんっ」
とつぐみは叫んだ。


「社長、なに笑ってんですか?
 聞いてます?」

 社長室で奏汰はスケジュールを説明していた西和田に睨まれる。

 いや、と言う頭の中ではまだ、あのつぐみの『ひゃくとうばーんっ』が繰り返し流れていた。

 あまりのマヌケっぷりに可哀想になって、結局、手を放してしまったのだが。

 なんだかんだであいつの思う通りになってるな、と思う。

 まあ、白河さんの調子もいいようだし、無理やり急いで子どもを作ることもあるまい。

 それに――。

 もう少し二人だけで暮らしてみたい気もしているし。

「……最近、楽しそうですね」
と西和田は何故か嫌味のように言ってくる。

「悪いか?」
と思わず言ってしまった。


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