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まるで、嫁入りです
好意よりは殺意がわく
しおりを挟むそのあと、西和田に、奏汰にお茶を持っていくように言われた。
他に誰も居なかったので、社長室で、つい、
「どんな人にもいいとこってありますよね」
と呟くと、
「開口一番なんだ?」
と奏汰が、パソコンから目を上げ、訊いてきた。
「西和田さんですよ。
スパイですが、良い方です」
そう言ったが、スパイですが良い方とかあるか、と渋い顔をされてしまう。
そして、一口茶を飲んだ奏汰はまた渋い顔をした。
「お前、つまみは上手いが、お茶淹れるのは下手だな」
熱いし、濃い、と顔をしかめる。
「うちの粗茶よりまずいぞ」
と言われ、ははは、と笑った。
「失礼しました」
と社長室から外に出たら、たまたま英里が居た。
うわあ~、嫌だなあ。
あんた、また社長のとこにお茶運んだの?
なんで最近あんたなの?
調子にのってんじゃないの? とか思ってそうだな、と思っていると、
「……あんた、思ってることが全部顔に書いてあるわよ」
と言われる。
ひい……。
「別にあんたがまずいお茶運んだからって、社長の覚えがめでたくなるなんて思ってないわよ」
と言う英里に、はは、と苦笑いしたあとで、
「そうだ、田宮さん。
お茶ってどうやったら、上手く淹れられるんですかね?
本とかネット見ながら、淹れてみたりはしてるんですが」
と言うと、
「本やネット見ながらやってるから、タイミングがずれるんじゃないの?」
と言われた。
そ、そうかも、と思っていると、
「ちょっと来なさい。私たちがあんたをちゃんと指導してないと思われたら嫌だから」
と言って、給湯室に引きずっていかれた。
秘書室に戻った途端、仕事の手を止めた西和田に、
「どうした、ニコニコして」
と言われた。
斜め横、お誕生日席の西和田を見ながら言う。
「いえ、田宮さんにお茶の淹れ方をご指導いただきまして」
後でお淹れしましょうか? と言いかけ、
「あ、やっぱりやめときます」
と苦笑いして言うと、西和田はパソコンに目を落とし、
「そうだな。
やめとけ。
また無駄に睨まれるぞ」
と言ってきた。
つぐみは声を落とし、
「あの、田宮さんのこと、わかってらっしゃるんですか?」
と訊くと、西和田は、こちらを見ないまま、
「まあ、結構、積極的にアプローチしてくるからな」
と言う。
「お前なんて、ただ席が近いってだけで、睨まれてるしな。
俺はただ、お前が、なにか失敗しそうだから見張ってるだけなのに」
そう溜息つかれる。
うっ。
「でも、ちょっと過大評価していただいて嬉しいです」
「過大評価?」
と目を上げ、西和田は訊き返してくる。
「田宮さんのような大人の綺麗な女性に、恋敵だと思われて睨まれるなんて」
西和田さんが私みたいなのに好意を抱くはずなんてないのに、と言って、
「まあ、好意よりは殺意がわくな。
この間みたいに、外部の人間が居るときにヘマされると」
と言われた。
うう。
そして、好みじゃない、と言い切られる。
「人事の佐久間とか、営業の古村とかが好みだ」
なんとなくぼんやり浮かぶ顔を思い起こしながら、
「あー、色っぽい系ですね」
と人様の好みを伺い、変に納得する。
「でもそれだと、田宮さんも近くないですか?」
「少しサバサバしすぎで、気が強いからなあ」
と言う西和田に、
「そうですか?
佐久間さんの方が気が強いですよ。
古村さんは、あれでなかなか男らしい潔さがありますし」
私はその方が好きですが、と言うと、こちらを見、
「お前、秘書にあるまじき、顔の覚えの悪さだが、覚えたら、観察眼は鋭いな」
と言ってくる。
そうですか? と笑うと、
「あれから社長とはどうだ?」
とスパイらしく訊いてくるので、つぐみは小声で、
「なんだか着実に呑み友だちになってってます」
と言って、
「なんでお前がスパイっぽくなってるんだ」
と言われてしまった。
ははは、と笑うと、手を止めていた西和田は、
「……打つの、めんどくさくなった。
続き打て」
と西和田のパソコンの前に手招きをする。
えー、と言いながらも、西和田が何処かに行ってしまったので、仕方なく、かわりに打った。
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