13 / 58
まるで、嫁入りです
目をそらしたら負け
しおりを挟む翌朝、つぐみが目を覚ますと、目の前に奏汰の顔があった。
ひゃーっ、とつぐみは脳天に突き抜けるような声を上げ、飛び起きる。
「なっ、なんで一緒に寝てるんですかっ。
私、襲われましたっ?」
と言うと、奏汰は呆れたように、
「お前、処女なんだろうが。
襲われてわからないとかあるか」
と言ってくる。
そ、そういうものなのですか。
よくわかりませんが、と思いながら、目の前にある奏汰の顔にまだ固まっていた。
本当に綺麗な顔だな、と思う。
寝起きの自分の顔など、ぼんやり腫れていたりもするのだが、奏汰はそういうのもないようだった。
「……じっと見るなよ」
と奏汰が言ってくる。
「社長こそ――
奏汰さんこそ、見ないでください」
そらしたら負けな気がして、二人でそのまま、しばらく見つめ合っていた。
なんだかまだ眠いな、と思いながら、つぐみが会社の廊下歩いていると、頭の上で声がした。
「社長と同じ匂いがする」
ひっ、と振り返ると、西和田が気配もさせずに、真後ろに立っていた。
周りに人が居ないのをいいことに、つぐみの髪の匂いを嗅いで、そんなことを言い出す。
「えっ、シャンプーは別ですよっ」
とうっかり言ってしまい、マジかっ、と言われた。
「いや、シャンプーの話じゃなくて、身体全体から漂う家の匂いとでも言うかな」
気配か? と自分でもよくわからないように小首を傾げる西和田に、そんなものがわかるなんて、さすがスパイ様だな、と思っていた。
「結局、社長と一緒に住んでるのか」
と問われ、
「はあ。
白河さんの手前」
と言うと、
「……まずいな」
と何故か西和田が言う。
「社長の、白河さんの覚えがめでたくなってしまう」
「白河さんってそんなに権力がある方なんですか?」
なんだ、なにも知らないのか、という顔をして、西和田が言う。
「権力というより、人望があるんだ。
あちこちに顔が利く」
そういえば、うちの父親もそんなことを言ってたな、と思い出していた。
「専務のことを白河さんはお嫌いなんだよ」
「あのー、なんで西和田さんは専務に仕えてらっしゃるんですか?」
と訊くと、西和田は語り出す。
「いや、実は専務は、俺がコンビニでバイトしていたときの常連さんだったんだ」
「えっ? コンビニでバイト?」
西和田さんがですか? と訊き返す。
なんだか、似合うような、似合わないような。
っていうか、こんな男前の店員さんが居たら、女性客がせっせと通いそうだな、と思っていた。
田宮さんとか、田宮さんとか、田宮さんとか……と思っていると、西和田は、なにか思い出すように少し笑い、
「専務、あれで気のいいとこもあるんだよ。
俺のことも引き抜いてくれた」
と言う。
「それは見る目がありましたね」
そう言うと、西和田は何故か黙った。
「まあ、恩のある方には、ちゃんとお返しした方がいいですよ」
「お前の社長を追い落とすのでもか」
お前の、というところが気になるが、と思いながらも、つぐみは言う。
「貴方がたに追い落とされるのなら、それまでの人ということですよ」
「どんな妻だよ……」
崖から突き落とす獅子か、と言っていた。
「奥さんなら、最後まで味方で居てやれよ。
子どもたちは結婚して出て行くが、夫婦は一生寄り添い合う相手なんだからな」
と何故か忠告してくれる。
「いい人ですねえ、西和田さん」
としみじみと言うと、西和田は、えっ、という顔をして振り向いていた。
2
お気に入りに追加
105
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜
ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。
イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。
8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。
※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。
【完結】召しませ神様おむすび処〜メニューは一択。思い出の味のみ〜
四片霞彩
キャラ文芸
【第6回ほっこり・じんわり大賞にて奨励賞を受賞いたしました🌸】
応援いただいた皆様、お読みいただいた皆様、本当にありがとうございました!
❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.
疲れた時は神様のおにぎり処に足を運んで。店主の豊穣の神が握るおにぎりが貴方を癒してくれる。
ここは人もあやかしも神も訪れるおむすび処。メニューは一択。店主にとっての思い出の味のみ――。
大学進学を機に田舎から都会に上京した伊勢山莉亜は、都会に馴染めず、居場所のなさを感じていた。
とある夕方、花見で立ち寄った公園で人のいない場所を探していると、キジ白の猫である神使のハルに導かれて、名前を忘れた豊穣の神・蓬が営むおむすび処に辿り着く。
自分が使役する神使のハルが迷惑を掛けたお詫びとして、おむすび処の唯一のメニューである塩おにぎりをご馳走してくれる蓬。おにぎりを食べた莉亜は心を解きほぐされ、今まで溜めこんでいた感情を吐露して泣き出してしまうのだった。
店に通うようになった莉亜は、蓬が料理人として致命的なある物を失っていることを知ってしまう。そして、それを失っている蓬は近い内に消滅してしまうとも。
それでも蓬は自身が消える時までおにぎりを握り続け、店を開けるという。
そこにはおむすび処の唯一のメニューである塩おにぎりと、かつて蓬を信仰していた人間・セイとの間にあった優しい思い出と大切な借り物、そして蓬が犯した取り返しのつかない罪が深く関わっていたのだった。
「これも俺の運命だ。アイツが現れるまで、ここでアイツから借りたものを守り続けること。それが俺に出来る、唯一の贖罪だ」
蓬を助けるには、豊穣の神としての蓬の名前とセイとの思い出の味という塩おにぎりが必要だという。
莉亜は蓬とセイのために、蓬の名前とセイとの思い出の味を見つけると決意するがーー。
蓬がセイに犯した罪とは、そして蓬は名前と思い出の味を思い出せるのかーー。
❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.
※ノベマに掲載していた短編作品を加筆、修正した長編作品になります。
※ほっこり・じんわり大賞の応募について、運営様より許可をいただいております。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる