眠らせ森の恋

菱沼あゆ

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まるで、嫁入りです

では、モスコミュールで

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「どうせ、お前、酒も作れないんだろう」
 そう奏汰は言ってくる。

「秘書室の呑みのとき、お前が積極的に動いてもてなしてるのも見たことないからな」

 いや、お父さんが、そういうとき、こまめに動くのはホステスさんのようで良くないと言うから――

 いや、嘘です。

 どうしたらいいのかわからないし、いまいちやる気もないからです。

 英里さんたちがせっせと動いてらっしゃるのを邪魔するのもな、と思いますしね、と心の中で言い訳をしていると、奏汰が言い出した。

「そういえば、秘書室の歓迎会のとき、堀田たちがお前を酔わそうとしていたが、お前、幾ら呑ませても顔色ひとつ変わらなかったな。

 そして、俺につぎましょうか、と言いながら、酒をかけようとした――」

「いや、あの、かけようとしたんじゃなくて、結果的にかかりそうになっただけですよ」
と微妙に訂正してみたのだが、奏汰は、同じことだろ、という目で見ながら、

「西和田以上の刺客かと思ったぞ」
と言う。

「でも、西和田さん、いい方ですよね。
 常に会社のために動いてらっしゃいます」
と言うと、あれ、いい方か? と奏汰は眉をひそめた。

「俺を追い落とそうしている奴がか。
 俺があの会社にとって邪魔だとでも?」

「そんなこと言ってないじゃないですか、もう~」

 まだ呑んでもないのに絡むな、と思っていると、奏汰は、
「なに呑む?」
と訊いてきた。

「軽いカクテルくらいなら、作ってやるぞ」
と言われ、ええっ? と喜ぶ。

 カウンターの側に行き、そういえば、さっきから、シェーカーとかレモン絞るのとか出して並べてたな、この人、と思った。

「急にテンション上がったな」

「はいっ」
と言いながら、嬉しいな、メニューはないのだろうか、と思って見上げると、

「……仔犬のような目で見るな。
 なにがいい?」
と奏汰が訊いてくる。

「あ、じゃあ、モスコミュールを」

「モスコか定番中の定番だな」
と鼻で笑う。

 いけませんか、定番の品では、と思っていた。

 しかし、なんだかんだ言いながらも、奏汰は、慣れた手つきでモスコミュールを作ってくれている。

 かぶりつきの位置でその姿を見ながら、
「バイトでもしてたんですか? バーとかで」
と訊いてみた。

「……俺がか?」
と言う奏汰に、そんなわけないですよねー、と苦笑いしていると、奏汰よく冷えた銅製のマグカップにモスコミュールをそそぎながら言う。

「いや、忙しくて外で呑む余裕のないとき、家で自分で作れるよう練習したんだ」

「そうなんですか。
 いや、すごく手際がいいな、と思って」
と言うと、

「店で呑むとき、バーテンの動きをじっと見てるからな」
と言う。

 怖いな、その客……。

 社長、仕事するときの勢いで、凝視してるんだろうな。

 バーテンさん、やりにくいだろうに、と思う。


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