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まるで、嫁入りです
お嬢さんを幸せにします
しおりを挟む日曜日。
奏汰の家に、寿の文字が入った布が被せられた大きなトラックが何台も止まり、自分の荷物が運ばれて行くのをつぐみは呆然と見ていた。
なんだろう。
既に嫁入りする感じなんだが。
大丈夫か? 私。
――というか、私の未来と貞操、と思いながら、つぐみは門の外に突っ立っていた。
母、小枝子は張り切って、運送屋にいろいろ指示している。
『あんた忙しいのなら、私が決めとくわよ』
と言って、花嫁道具と言っても、今どき、揃えないだろうと思う鏡台から箪笥までいつの間にか買われていた。
「特注のにしたかったのに、時間がなかったから」
と小枝子は、そこだけ不満げだった。
いや、私はすべてに置いて不満だが、と立派に梱包されて、見ることも叶わぬおのれの嫁入り道具が目の前を通過していくのを見送る。
「お母さん、結納もしてないのに」
普通、これらは結納金で買うものでは、と重そうに業者の人たちが運んで行く箪笥らしきものを見ていると、
「あら、結納金なら、いただいたわよ」
と言い出す。
「ええっ? いつの間にっ?」
「結納は白河さんがもう少し元気になられてからやるみたいだけど。
いろいろとご入用でしょうからって、ほら、この間半田さんがうちにご挨拶に見えられたときに、少し置いていってくださったの、三百万くらい」
それ、少しなのですか? お母様。
だがまあ、その金で娘が買われたのだと考えると、はした金かもしれないが。
あれからすぐに奏汰は実家に挨拶に来た。
『責任取ってお嬢さんを幸せにします』
と言う奏汰に、なんの責任だ、手篭めにされた覚えはないが、と思っているつぐみの横で、何故かすっかり奏汰が気に入ったらしい父は、
『これもご縁なんでしょうな』
と言いながら、機嫌良く酒をそそいでいた。
あとで、
『一目見て、お前を大事にしてくれる男だとわかった』
と満足げに頷いていたが、娘は、いや……お父さんの目は節穴ですか、と思っていた。
父親らしく、娘は渡さんとか一度は言ってみて欲しかったんだが、と思っているつぐみの横で、小枝子が、
「お父さんも寂しいみたいだけど、ほっとしたみたいよ、あんたの結婚が決まって」
と二棹目の箪笥を見ながら微笑む。
「なんで?」
「そういうものなの。
あんたも親になればわかるわ。
いずれ自分たちが年をとって居なくなっても、娘に新しい家族が居ると思えば安心だし。
此処まで育て上げて、あんたをこの先ずっと守ってくれる人に無事渡せたってことで、なんだか親は安心するのよ」
なんか偽装結婚なのが、申し訳なくなってきたな、と思っていると、
「安心なさってください。
お嬢さんは必ず幸せにします」
という声が背後からした。
そんな笑顔は見たことないぞ、と思われる人当たりのいい、信頼に足りそうな笑顔を浮かべた奏汰が立っていた。
「まあ、奏汰さん。
お世話になります」
と小枝子は深々、婿―― だと思っている男に頭を下げていた。
運送屋に指示しながら、小枝子が中に入っていったあと、つぐみは言った。
「嘘でも言っていただいてありがとうございます」
「別に嘘じゃない。
ま、幸せだと思うかはお前次第だがな」
と言って奏汰は中に入っていった。
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