ここは猫町3番地の5 ~不穏な習い事~

菱沼あゆ

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不審な人物が現れました

私がここにいる意味は……

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「珈琲はいまいち。

 メニューはレトルト。

 庭は造園業者さんがやっている。

 私はこの店でなにをやっているのかなと、今日はちょっと自分の存在に疑問を抱いたんですよね」

 夜、仕事帰りにやってきた将生に琳は言う。

「いいじゃないか、その道のプロたちが頑張って、お前の仕事が成り立ってるわけだから」

 最近いないけど、喜三郎さんとか。

 レトルトの工場の人とか。

 ちょっとムカつく白いカメの造園業者とか、と将生は言う。

 ちょっとムカついてたんだ、あのカメに……と思いながら、琳は外を見た。

 その白いカメの造園業者が最近置いていってくれたボール型のソーラーライトがあちこちに置いてある。

 ぼんやりとした月明かりに照らし出された庭に、同じようにぼんやりとした暖色系の丸いソーラーライトが点在していて、いい雰囲気だ。
 
「すると、琳ちゃんはなんのプロなんだろうね?」

 話を聞いていたらしい小柴が、窓際の席から笑いながら言ってくる。

 うっ、やはり、私はなにもしていないっ、と琳は思ったが、小柴は、

「きっと、喫茶店のプロなんだよ」
と本に目を落としたまま言う。

「喫茶店ってほら。
 なにか食べたいから行くとか、飲みたいから行くとかだけじゃなくて。

 その空間にいたいから行くって言うかさ」

「ここにいたら、常に、誰かがなにかの犯人にされかけるのにですか?」
と大真面目に将生が訊き返したとき、顔を上げて小柴は言った。

「でも、まあ、そろそろ、喜三郎さんの珈琲が飲みたいかな」

 琳は、あ~、と溜息をつくように言う。

「それが、喜三郎さん。
 来られてもすぐに帰ってしまうんですよね。

 生け花とかに夢中みたいで」

「生け花ねえ……」

 小柴は琳の淹れた珈琲を一口飲んだあとで言った。

「まあ、気にすることはないよ。
 この店はほんとうに居心地がいいよ。

 ところで、琳ちゃんがそんなに気にするってことは、喜三郎さんの件、なにか事件の匂いがするのかな?」

 解決に僕も協力するよっ、と小柴は、やけに積極的に言う。

 そのトラブル解決したら、喜三郎さん帰ってきてくれて、珈琲淹れてくれるに違いないっ、という勢いだった。

 それを誤魔化すように小柴は笑って言った。

「喜三郎さんがいないと、囲碁の話もできないしね」
と。



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