ここは猫町3番地の5 ~不穏な習い事~

菱沼あゆ

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不審な人物が現れました

おい、探偵

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「探偵、池の底をさらってくれ」

「はい」

「探偵、ついでに、金魚の水を変えといてくれ」

「はい」

 そんなやりとりしかしていない気がする依頼主、末太郎に、猫町3番地で出会った真守は、彼らと別れ、ひとり、庭先に回る。

 どん、と駐車スペースにとまっていたのは、真っ黄色のトラック。

 トラックの後ろには、腹立つ感じに、ぽっかり口を開けている白いカメがペイントされている。

 可愛いいのに、見てると、イラッとしていくるんだよな~。

 ずっと、なんでだろうと思っていたのだが。

 最近、気づいた。

 このカメが、なんの悩み事もなさそうで、呑気そうだからだ。

 可愛さあまって、どつきたくなる。

 また、犯罪に巻き込まれそうだな、このトラック、と真守は思った。

 いつか何処かの犯罪者が、

 俺たち、こんな大変状況なのに、呑気なツラしやがって、このカメ。

 なんか腹立つから、こいつを巻き込んでやろうっ、
とかなりそうだ。

 このカメのトラックの運転手がせめていかつい大男だったら、犯罪者たちも断念するのだろうが。

 残念ながら、運転しているのは、大抵の場合、あの、ぽわんとした水宗だ。

 よし、やっちまおうっ、と今にもなりそうだな、と真守は思う。

 子どもの頃からの夢。

 探偵に向かって一歩踏み出したはずなのに。

 まだ微妙に犯罪者寄りの思考を持つ真守は、そんな風に、捨て鉢な犯罪者の考えを見事に頭の中で的中させながら、ぽわんなカメの横を通りすぎる。

 猫町3番地の入り口に真守は立つ。

 この扉を開けると、笑顔の素敵な女店主と、愛想のよい常連さんたちがいて、とても落ち着く空間が広がっている。

 ……はずなのに。

 何故か気がついたら、みな、犯罪に巻き込まれているのだ。

 いや違う。
 ここに入ると、『犯罪に知らない間に巻き込まれていた自分』に気づくというか。

 信じていた日常がいきなり非日常に変わるというか。

 ここに来なければ、『犯罪とすれ違ったけど、気づかない自分』でいられるのに。

 なんでだろうな。

 探偵志望の自分はともかく。

 極力、その手のことに関わりたくない普通の人まで、つい、この店の扉を押してしまうようだった。

 ……そういえば、宝生さんは、休みの日まで事件と関わり合いになりたくないと言ってはいるが。

 暇さえあれば、ここに来てるみたいだな。

 まあ、あれはちょっと通う理由が違うようだが……。

 などと思いながら、結局、扉を開ける真守は、今日もまた、ここに来たせいで、犯罪とすれ違っていた自分に気づくハメになるのだった。

 真守はかぐわしい珈琲の香りと琳と笑顔を期待して扉を開けたが。

 店の中には、美味しそうなカレーの香りが漂っていた。

 琳の素敵な笑顔は変わりなかったが。

「あ、いらっしゃい、小村さ……」
と琳が言い終わらないうちに真守は言った。

「雨宮さん、今、外に、うちの依頼人がいたんですけどー。
 昔、喜三郎さんの珈琲を飲んだことあるらしいですよ」

「喜三郎さんの珈琲を?
 昔、喜三郎さんがやってらしたお店に通ってた方とかですかね?」

 琳は将棋仲間と話している喜三郎を見る。

「さあ。
 誰なんだろうねえ。

 顔を見たらわかるかもしれないけどねえ」
と喜三郎は笑って言う。

「おい、探偵の小僧っ。
 余計なことは言うなと言っただろうっ」
と怒られそうなスピードで、真守は、琳に末太郎の話を暴露したが。

 真守は、ああは言われたが、琳に報告するのは構わないだろうと思っていた。

 彼女こそが自分のボスだと思っているからだ。





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