ここは猫町3番地の5 ~不穏な習い事~

菱沼あゆ

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この店、最大のピンチですっ

事件の匂いがするのなら、あなたとともに何処までも――

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「いいお天気ですね」

 琳は将生と並び、すぐ近くのコミュニティセンターまで歩く。

 まだピカピカの自動販売機、猫町4番地を眺めながら、
「喜三郎さん、どうして急に、片っ端からサークルに入ってみようと思ったんですかね?」
と琳は呟く。

「そうだな。
 なんでだろうな」

 そう呟く将生はいつも通りのようにも見えたが。

 なにかいつもと違うようにも見えた。

 将生は、ちょっとデートのようだ、と思い、緊張していたのだが、琳にはまったく伝わってはいなかった。

「ここがコミュニティセンターか。
 思ったより、近いな」

 将生は中にはまだ入らず、ロータリーで足を止め、敷地内全体を眺めている。

 ……事件現場に来て状況を確認しているかのようだ、と琳は苦笑したあとで言った。

「そうなんですよ。
 だから、コミュニティーセンターの帰りに寄ってくださる方も結構いるんですけどね」

 シンプルな色合いの猫町3番地の庭とは対照的な、鮮やかな色の花々が植えられていいる花壇のせいか。

 新しく塗り直されたコミュニティーセンターの白い壁のせいか。

 ぱあっと明るい雰囲気だった。

 春になったから、習い事をはじめてみようっ、と思って、ここに通い始めるというのもわかるな、と琳は納得しかける。

 ホールの中に入ると、少しひんやりしていた。

 壁の消防署のポスター横に、いろんな教室の一覧表がある。

「各曜日、いろいろありますね。
 月曜はコーラス、フラダンス、お習字、囲碁。
 火曜はヨガ、木工、生け花、将棋、社交ダンス……」

 なんか楽しそうですね、と呟いて、

「お前もやるのか?」
と将生に訊かれる。

「いえ、お店があるので」

 いや、今も店開けたまま来てしまっているのだが……。

「あ、今、カラオケもやってますね」

 そういえば、何処からか、演歌が聞こえてくる。

「喜三郎さんは陶芸だったか」

 そうなんですよね……と言いながら、琳は小首をかしげる。

「そういえば、俺の知り合いも退職後、暇になって、いろいろやってみてたな」
と呟いた将生が、

「とりあえず、陶芸の教室を覗いてみよう」
と言った。

「お邪魔してもあれなんで、窓からそっと覗いてみましょうか?」

 陶芸の教室が何処か確かめ、琳は花壇越しに窓から喜三郎の様子を窺った。

 喜三郎は、珈琲を淹れるときと同じ几帳面さでろくろをまわしている。

 微笑ましく眺めたあとで、
「行きましょうか」
と将生に声をかけた。

 もう一度、中に入り、各教室のチラシをもらう。

 歩いて前庭に出ながら、それを眺めていると、
「なにか気になるのか?」
と将生が声をかけてきた。

 はあ、まあ、ちょっと……と言いながら、琳は白い二階建ての建物を振り返る。



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