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騙されました!
お片づけ、楽しかったですね
しおりを挟むマンションに戻ると、葉名たちは家を片付け始めた。
今までは運気を上げることを考えて、片付けていたのだが、今日から片付けるのは、引っ越しのためだ。
此処は一人暮らし用で、そんなに広くないし、陽子の持ち物なので、とりあえず、東雲が所有しているマンションのひとつに住むことになったからだ。
ダンボールに荷物を詰めながら、葉名は言う。
「二人で片付けてると、脱線しがちで、なかなか片付かなかったですけど。
楽しかったですね」
お互いの過去を振り返りながら、片づけているうちに、距離が縮まっていった気がする、と言うと、准も言う。
「そうだな。
俺もいろいろと昔のことを思い出したよ。
小さかったお前のこととか、格好良かったお前の兄ちゃんのこととか――。
あと、お前の両親のこととか。
そしたら、いろんな人に大事にされて、此処まで育ってきたお前を大切にしなきゃなって、改めて思ったよ」
パキラとガジュマルとクマを見ながら、少し笑って准は言う。
「そういえば、お前を手に入れることは、運気を上げるための手段だったはずなのに。
いつの間にか、お前自身が目的になってたな」
いや、そもそも、私を手段にしないでください、と思いながらも、葉名は赤くなる。
「私も今は思っています――。
おばあさまや、ご両親、会長たちが大切に見守ってきた貴方を大事にしなきゃなって」
そんなことを言っているうちに、なんだか泣きそうになった。
見てもいないのに、走馬灯のように蘇ってくる。
両親や祖父母に大切に育てられたであろう、幼稚園の准。
小学生の准。
――いや、それは見たか。
中学生の准。
高校生の准。
初めて彼女が出来た准。
いや、そこは殴りたい……。
大学生、そして、今の准を支え、見守ってきた家族のことを思って、泣きそうになる。
わずかに滲んだ葉名の涙に気づき、
「莫迦か」
と准が梱包する手を止め、ぬぐってくれた。
「泣くのは結婚式にしろ」
とやさしく笑う准に、葉名は言う。
「いや、それが式のときって、意外と泣けないらしいです。
朝から準備で忙しくて。
従姉のおねえちゃんなんか、式までに痩せるだろうと思って買った小さめのコルセットのせいで、息もできなくて、死にそうで、なにも感動できなかったと言ってました」
「……お前の親戚はそんな感じの奴ばっかりか」
と陽子を思い出してか、准は言ってくる。
だが、そこで、よしっ、とまた葉名を抱き上げた准は、
「お前は小さめのコルセットは買うなよ。
来週までに痩せるはずないからな」
と笑って言ってくる。
いや、来月でも痩せませんよ。
ええ、きっと……、と思っていると、そのまま寝室に行きかけた准が、ふと足を止め、振り返った。
食器棚と壁の隙間に畳んで立てかけてある古いダンボールを見ながら言ってくる。
「呪いの箱なんかじゃなかったな」
「え?」
「いっぱい思い出がつまってた――」
そう言い、少し笑ってキスしてきた。
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