上 下
37 / 94
幽霊タクシー

いや、そっちのほうが怖いんですけどっ

しおりを挟む
 
「困るんだよねえ。
 あの人たち、料金払わないから。

 家に着いたあとで、またですかって言って、おうちの方が払ってくれることもあるけどね」

「そんなによくあるんですか?」

「僕はそんなにないけどねえ。
 霊感の強い人とかは、またやられたっ、とか、よく言ってるよ。

 たまに、酔った客が乗りそびれただけのときあるけどね。

 乗ったはずの客がいなくて、幽霊だったかと思って。

 また次の客を乗せようとぐるっと回ってきたら、まだそこにさっきのお客さんが立ってて。

 やっぱり霊だったのかと思ったら、
『なんで乗る前に行っちゃうの~』
 ってからまれたとか」

 そういうのありそうだな、と乃ノ子は苦笑いする。

 だが、イチは、
「オリジナリティがあまりないから駄目だな」
と言い出す。

「これぞ、言霊町の都市伝説! ってとこがないもんな」

「なんですか、その厳しい編集さんみたいな意見は」
と乃ノ子が言ったとき、中田が言ってきた。

「でも、そういや、珍しくお金置いてく幽霊乗せたって誰かが言ってたな。

 客は後ろにいるのに、助手席の辺りで、なにかがガサゴソしている音が聞こえてきて……」

 今、あなたの隣でゴソゴソしている、すねこすりみたいな感じですかね?

「後部座席には、黒ずくめの恐ろしいくらい綺麗な顔した男が乗ってたんだけど。
 途中で消えちゃったって」

 ん? と思いながら、横を見ると、イチが消えかけている。

「あのっ、もしかして、この都市伝説っ、犯人はあなたじゃないですかっ?」
と小声で揉めている間、中田は正面を見たまま、違う怖い話をしていた。

「そのようだな。
 タクシー乗ったはいいが、消えそうだったんで、お金置いてったな、つい最近」

「……お金置いてく幽霊。
 余計怖い気がしますが」

「だがまあ、大丈夫だ、今回はお前が乗っている。
 客が消えたって話にはならないさ」

「いやいやいやっ。
 二人で乗ったのに、一人になってるの、おかしいでしょうっ」
と乃ノ子は訴える。

 すると、三分の一くらい色が薄くなっているイチは窓の外を見て、

「おっ。
 ちょうど、あそこにさっちゃんが走ってるじゃないか。

 あいつを代わりに乗せておけ」
と言い出した。

 なるほど、頭にリボンをつけたさっちゃんが道を疾走している。

 速いので、みんな犬が駆け抜けたくらいにしか思わないかもしれない。

 というか、そんなものを見た自分を疑って、信じないに違いない。

「いきなり、タクシーの後ろに、ぽつんと人形がのってたら怖いでしょうが~」

「お前がいるだろうが。
 それに、あいつが、ぽつんとなんてしてるわけないだろ?」

 すぐに騒ぐか、いなくなるに決まってる、とイチは主張する。

「いやいやいやっ。
 それこそ、新たな都市伝説が生まれちゃいますよっ」

 しかも、お金置いてく幽霊より怖いです~っ!

 などと乃ノ子たちは揉め、中田が講談師のごとく怪談を語っている間に、イチの家に着いたらしく、タクシーはとまった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 令和のはじめ。  めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。  同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。  酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。  休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。  職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。  おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。  庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

俺の幼馴染がエロ可愛すぎてヤバい。

ゆきゆめ
キャラ文芸
「お〇ん〇ん様、今日もお元気ですね♡」  俺・浅間紘(あさまひろ)の朝は幼馴染の藤咲雪(ふじさきゆき)が俺の朝〇ちしたムスコとお喋りをしているのを目撃することから始まる。  何を言っているか分からないと思うが安心してくれ。俺も全くもってわからない。  わかることと言えばただひとつ。  それは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いってこと。  毎日毎日、雪(ゆき)にあれやこれやと弄られまくるのは疲れるけれど、なんやかんや楽しくもあって。  そしてやっぱり思うことは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いということ。  これはたぶん、ツッコミ待ちで弄りたがりやの幼馴染と、そんな彼女に振り回されまくりでツッコミまくりな俺の、青春やラブがあったりなかったりもする感じの日常コメディだ。(ツッコミはえっちな言葉ではないです)

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...