110 / 110
第六章 月読おはぎとオーパーツ
月読おはぎとオーパーツ その二
しおりを挟む数日後――。
「鷹子よ、土産物をたくさん持ち帰ったぞ」
地方に下った友人に会いに行っていた右大臣の父、春時が訪ねてきた。
ちょうど吉房もやってきて、みんなで話していると、春時が言い出した。
「そういえば、最近、東国の方の川に変わったあやかしが出るらしいのですよ」
旅の途中で聞いた話らしい。
「なんでも、しゃこしゃこ小豆を洗い続けるあやかしが出るとか」
吉房がこちらを見た。
「見た目はどう見ても、鬼なので。
最初は、みな、怯えていたらしいのですが。
ただただ、ずっと小豆を洗っていて。
しかも、それを人間に配ってくれるらしいのです」
あの日、晴明が白状してきた。
『すみません。
小豆を洗う呪いを解き忘れて、そのまま、鬼たちを方々に返してしまいました――』
「それで、みんな、そのあやかしをこう呼んでいるらしいです。
『小豆洗い』と」
ふー、と吉房が目を伏せ、溜息をついた。
「そ、そうですか。
まあ……誰も襲わないのなら、いいのでは……?」
と鷹子は、まとめようとする。
またもオーパーツを作ってしまったようだ。
妖怪小豆洗いは江戸くらいにならないと出てこないはずなのに。
その後、各地から、妖怪小豆洗いの伝承が聞こえてくることとなる――。
春時が帰ったあと、
「またおかしな物を作りおって」
と言う吉房に、鷹子はちょっとだけ反論してみる。
「……今回は私じゃありませんよ、晴明ですよ~。
まあ、私のせいではありますけどね。
あっ、ところで、オーパーツついでに小豆カイロを作ってみました」
「小豆カイロ?」
「布の中に小豆をつめて温めたものです。
いつまでも程よい温かさが続きます。
温石の代わりになりますよ」
温石とはこの時代のカイロなのだが。
石なので、かなり重い。
「ほう、これは気持ちいいの」
と吉房は手に持ってみてご機嫌だ。
「差し上げますよ。
目のせたり、首にのせたり、肩にのせたりしてもいい感じですよ」
「そうか」
と吉房は早速やってみようとしたが、カイロの上には、いつの間にやら、神様が寝ていた。
「ほうほう。
これは気持ちがよいのう」
「こらっ。
退けっ。
使えないではないかっ、無礼者っ。
それは、帝であるこの私に、愛する妻がくれたものだぞっ」
と微妙に威張りながらも。
人の良い吉房は、神様を振り落とすことなく、カイロをそっと床の上に置く。
神様は心地よさそうに桜色の小豆カイロの上で寝返りを打ち、すぐに眠りに落ちたようだった。
「……平和だな。
こいつは、ほんとうに神様なのか?」
「まあまあ。
神様がこんなに呑気だと言うことは、帝の御世が安定しているということですよ」
そんなことを言い合いながら、秋のはじまりのすっきりとした風が吹き渡る中、二人でしばし、神様を愛でていた――。
『月読おはぎとオーパーツ』完
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
64
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
伊予に支持 → 伊予に指示 でしょうか?
転生だか転移だかするときって時代考証大変なんですねぇ…慎重にならねば…ってすることはないと思うのですが(笑)
わべさん、
ありがとうございますっ(⌒▽⌒)
助かりますっ。
そうなんですよね~。
なんかいろいろ調べておいて。
待てよ。
ここ異世界だったなと、ふと気づいたり(^^;
なろうでの更新は止まっていますが、こちらで続きが読めますか?
とても楽しみにしている作品なので
johndoさん、
ありがとうございますっ(⌒▽⌒)
すみません(^^;
結構、間空いちゃってましたね。
なろうとどっちが先になるかわかりませんが、新しい話も更新しようと思っています。
ありがとうございますっ。
頑張りますね~っ(⌒▽⌒)/