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第六章 月読おはぎとオーパーツ

月読おはぎとオーパーツ その一

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「月の神様の名前をもらって『月読おはぎ』と名づけました」

 鷹子はドライフルーツをのせた小さな丸いおはぎと、寒天でつるつるに固めたあんこ玉。

 それに、葛でぷるぷるになったあんこ玉を髭籠ひげこに詰めて、中宮の許に運んできていた。

「わざわざすまんな」
と寿子は言う。

 まだ、外からは管弦の宴の音が聴こえていた。

「いえいえ。
 頻繁に外に出られるとお疲れになられるでしょうから」

「……いや。
 今回、思い切って外に出てみてわかった。

 あまり苦しくはない。

 妾はやはり、もはや、あやかしの類いなのだろう」

 人としての身体は機能しておらぬに違いない、と言う。

「あやかしでも、中宮様の魂がそこに生きていらっしゃることに変わりありませんよ」
と言うと、

「お前の中では、あやかしと人間の境目が曖昧そうだからな」
と言って、寿子は笑う。

「……ほんに、お前は元気でいいの」

 先日、小豆を煮たり、火を起こしたりして、駆け回っていた鷹子を思い出すように寿子は言う。

「まあ、もう少し考えてみるわ。

 ところで、女御よ。
 お前は見事にきんことを弾くのであろう?

 ここまで響くよう、弾いてみよ」

 寿子は騒がしい宴の声が聞こえる方を見る。

「承知いたしました」
と鷹子は頭を下げた。



 命婦とともに外に出ると、晴明が待っていた。

 一瞬、御簾が上がったときに、寿子がじっと晴明を見ていたような、そんな気がした。

 晴明とともに宴の席に戻りながら、鷹子は月を眺める。

 不吉だと言って、水に映してしか月を見ない者もいるらしいけれど。

 私はやっぱり、夜空の月を眺めるのが好きだな、と思いながら、呟いた。

「『もう少し考えてみる』って、なにか気になる言葉だわ」

 ところで、晴明、と振り向く。

「なにか用事があって、待っていたのではないの?」

「お察しの通り。
 実は、ひとつ、やりそびれていたことがございまして」

「えっ?」

「うっかり、そのまま方々に帰してしまったのです」

 晴明にしては、珍しく歯切れ悪く物を言う。

「収集して歩いてもいいのですが。
 まあ、いずれ現れる予定のものですから」

「……なにが?」
とちょっと嫌な予感がしながらも、鷹子は訊いた。



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