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第五章 あやかしビールと簡易ふわふわケーキ

ついに、あれを手に入れました

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「ほんとはもうちょっとあとに食べるお菓子なんだけど。
 縁起の良いものだから、みんなで食べましょう?」

 というか、この時代にはそもそもないものなんだけど、と思いながら鷹子は言った。

 また、なんかオーパーツを作ろうとしているな、という顔で晴明は見ていたが。

 いや、どれも食べたり飲んだりしたら、なくなるオーパーツではないですか、と鷹子は思う。

 まあ、誰かが日記にでも書いたら、記録には残ってしまうのだが……。

 水無月は下がういろう、上が小豆の、現代では有名なお菓子だが。

 この時代にはまだない。

 氷の節句、賜氷節の儀のときに、貴重な氷を食べられない庶民が水無月を作って食べるようになったという説もあるが。

 本当は、庶民が食べていたのは、水無月ではなく、正月の鏡餅。

 軒先に吊るして凍らせ、乾燥させた餅を氷に見立て、氷餅と呼んで食べていたのだ。

 そもそも、水無月を食べるのは、夏越の祓なごしのはらえの六月三十日で。

 賜氷節の儀の六月一日ではない。

 菓子屋のこじつけで、氷の節句と一緒になって、語り継がれるようになったらしいのだ。

 まあ、なんにせよ。
 美味しいものが食べられるのは良い。

 ――水無月の作り方って、いろいろあった気がするけど。

 プリンのときに使った、繁殖が止まらない、グリーンモンスター、葛の粉を使ってみようかな、と鷹子は思う。

 あとは、白玉粉とか小麦粉とか。

 おっと、使いすぎると殺されそうな砂糖もだ。

 上にのせる小豆は少々使っても、きっと殺されない、と思いながら、鷹子は伊予たちと楽しく水無月を作る。

 やがて完成した水無月は、下は白く、もっちりしていて。

 上は、つやつやとした甘い小豆がのっている。

 三角の形は、暑気払いのための氷室の氷を表しているとも。
 夏越の祓のとき使うぬさを表しているとも言われている。

 どちらにしても、魔除けの赤い小豆ものっている、縁起の良い菓子だ。

「まあ、美しいですね」
「ぷるぷるしてますわ」
と命婦たちは、はしゃいでていた。

 だが、鷹子はそこで、ふふふ、と不敵に笑う。

「……喜ぶのは、まだ早いわ。
 ついに私は手に入れたのよ」


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