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第四章 平安カプチーノと魅惑のマリトッツォ
その辺でご容赦をっ
しおりを挟む林の中、鷹子はドラゴンと化した青龍を見上げて呟く。
「ねえ、さっきからずっと炎吐いてるんだけど、誰か来ない?」
「此処は結界が張ってあるので、外からは見えません」
と晴明が説明してくれる。
それで卵をこちらに運び込んでいたようだった。
「そう。
よかったわ。
このまま炎吐いてたら、何処からか勇者一行がやってきて、ドラゴン退治しちゃいそうだから」
「この世界に勇者はいないんじゃないですか?」
……だが、いるはずのないドラゴンが此処にいるではないかと鷹子は思う。
「まあ、いるはずないっていうか。
『日本に』いるはずのないモノよね。
何処から流れ着いたのかしら。
ついでに、今の日本にない、カカオとか、バニラとかも流れつけばよかったのにっ」
と鷹子は欲望に走る。
「カカオやバニラは交易でなんとかするしかないのでは」
常に冷静な晴明がそう言ってくる。
「……青龍が故郷へひとっ飛びしてとって来てくれないかしらね?」
「……ドラゴンの故郷、何処なんでしょうね」
大きくなりすぎた弟子を見上げ、晴明は呟く。
「そういえば、ドラゴンって、卵から産まれるのよね?
このドラゴンは卵産まないのかしら?
ドラゴンの卵、仏教で禁忌とされてる範囲かしら?」
「女御様。
青龍、オスです」
ですよね~……。
鷹子は師匠でさえ距離をとっている青龍の側に立ったまま、彼の背を撫でた。
「ごめんね、青龍。
欲望のまま語ってしまったわ。
あなたのために、何処かに、いい住処を作らないとね」
そのとき、いきなりドラゴンは光を発し、その姿を消した。
えっ? 青龍っ? とキョロキョロ周囲を回した鷹子は、林の中に長身でロングヘアの、晴明によく似た美しい面差しの青年が立っているのに気がついた。
衣も晴明がまとっている白い狩衣を青くしたものだった。
まあっ、と命婦たちがうろたえる。
色白細面で、切長の目。
ほぼ人間だが、何故か髪の色が青く、神々しい感じに日差しに輝いている。
「もしかして……青龍?」
そう鷹子が呟くと、マジマジと彼を見て晴明が言った。
「私に似てますね。
私を親のように思っていたので、似せてきたのでしょうか」
そこで、青龍は鷹子に気づき、
「女御様っ」
と子どものように抱きついてきた。
「……うん、なるほど。
青龍ね」
「青龍ですね」
見てくれは変わっても、中身は子どものままのようだった。
青龍は今度は、いつもお菓子をくれる命婦に気がついた。
「命婦様っ」
青龍は命婦に抱きつき、命婦は真っ赤になって失神しそうになっている。
伊予も飛びつかれるかと身構えていたようだったが。
最近入ってきたばかりなので、青龍は、……誰? という感じで見て、抱きつかなかった。
伊予は、ちっ、と舌打ちし、
「もっと懐かせておくべきでした……」
と無念そうに呟いている。
「あの~、青龍。
いろいろ波乱を呼びそうなんで。
その、もう子どもの姿には戻れないのかしら?」
そう鷹子が訊くと、
「なれますよ」
と言って青龍は元の童の姿に、ぽん、と戻ってくれる。
にこにこと笑う青龍を見ていた鷹子は、
「じゃ、ドラゴンには?」
と訊いてみた。
ぽん、と青龍は巨大なドラゴンとなり、天に向かって咆哮を上げた。
「じゃ、大人の青龍」
また長身のイケメンに戻ったそのとき、
「そのままでっ」
「そのままで女御様っ」
と命婦と伊予が同時に叫ぶ。
もうなにも命じないでくださいっ、と二人に懇願されてしまった。
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